安静で筋力は1週間にどれだけ落ちる?|寝たきり実験と入院患者のデータで読む日数の目安

ぺんた
「安静にしていると、1週間で筋力が◯%落ちる」って、よく聞きます。あれって本当ですか?
あいす
数字の出どころを確かめると、見え方が変わるよ。何日寝ていたかで落ち方が違うし、実験と実際の入院でも違うんです。
退院した利用者さんを訪問すると、脚の力が落ちているのを感じることがあります。では、安静で筋力は何日で、どれだけ落ちるのでしょうか。
この記事では、3つの系統的レビューを組み合わせ、1本を補足に使います。①18〜50歳の健康な成人を厳密に寝たままにした実験で、日数ごとの落ち方を見ます。②同じ種類の実験を高齢者でまとめたメタ分析で、年齢による違いを見ます。③実際の入院患者のメタ分析で、現場ではどうなるかを見ます。①②は条件がそろっているぶん現場とは違い、③は現場に近いぶん条件がそろっていません。互いの穴を埋める組み合わせです。
結論
筋力は安静5日の時点でもう落ち始めていて、10日でおよそ1割に達します。そして入院中は、握力だけでは脚の低下をとらえにくいと考えられます。
- 18〜50歳の健康な成人を厳密に寝たままにした実験では、ひざを伸ばす筋力は5日で約4%、10日で約10%、35日で約21%落ちる推定
- 高齢者の安静実験でも、ひざを伸ばすパワー(すばやく力を出す能力)は効果量−1.06と大きく落ちた(研究ごとの低下は9〜16%)
- 実際の入院患者では、ひざを伸ばす筋力は平均すると小さく低下した一方、握力は平均すると下がっていなかった
- 実験の数字は健康な人を24時間寝かせた条件のもの。そのまま入院患者や高齢者に当てはめる数字ではない
①18〜50歳の実験では、5日の時点でもう落ちていて、10日で約1割
①は、18〜50歳の健康な成人を5〜120日間ベッドで寝たままにした実験を集めた系統的レビューです(Journal of Applied Physiology 2021)。40研究、約320人(女性は41人)のデータを使い、ひざを伸ばす筋肉(大腿四頭筋)の筋力と筋肉の量が、日数とともにどう落ちるかを式にしています。50歳を超える人は対象に含まれていません。
論文が式から示した計算例は、次のとおりです。
| 安静の日数 | ひざを伸ばす筋力 | 筋肉の量 |
|---|---|---|
| 5日 | −3.6% | −1.2% |
| 10日 | −9.9% | −5.0% |
| 35日 | −21.2% | −11.8% |
| 120日 | −32.4% | −18.6% |
落ち方は一直線ではなく、安静の初期ほど速く、長くなるにつれてゆるやかになる曲線でした。5日から10日の5日間で筋力はさらに約6%落ちますが、35日から120日までの85日間で落ちるのは約11%です。
もう1つの特徴は、安静の初めのうちは、筋力のほうが筋肉の量よりずっと速く落ちることです。筋力の落ち方を筋肉の量の落ち方で割った比は、5日目で4.2、14日目で2.4、35日目以降は1.9で落ち着きました(この比は、筋力と筋肉の量の比そのものを別の曲線で当てはめた値で、上の表の数字を割った値とは一致しません)。MRIなどで測る筋肉のやせより先に、力が落ちるということです。著者らは、研究ごとの筋力低下の違いの約8割は筋肉のやせで説明でき、残りは神経や筋肉の質の変化によると考えています。
よく聞く「1週間で◯%」という言い方に照らすと、この実験では10日でおよそ1割です。なお、対象になった実験はどれも5日以上の安静で、1〜4日目にどれだけ落ちるかは、このレビューからは分かりません。
②高齢者の実験でも、脚のパワーは大きく落ちる
②は、健康な高齢者を5・7・10・14日間寝たままにした実験をまとめたメタ分析です(Frontiers in Nutrition 2021)。対象になった高齢者は合計118人で、17の論文を統合しています(もとになった安静実験は9つで、同じ参加者を報告した論文が重なっています)。
効果の大きさは、次のとおりでした。この論文では、効果量0.51〜0.80を「中くらい」、0.81〜1.20を「大きい」と分類しています。
| 測ったもの | 効果量(95%信頼区間) | 補足 |
|---|---|---|
| 全身の除脂肪量 | −0.67(−0.95〜−0.40):中くらい | 平均1.5kg減 |
| ひざを伸ばすパワー | −1.06(−1.37〜−0.75):大きい | 研究ごとに9〜16%の低下 |
| 脚の筋肉の量(高齢者) | −0.68(−0.96〜−0.40):中くらい | 減った量は平均0.86kg |
| 脚の筋肉の量(若い人) | −0.51(−0.80〜−0.22):中くらい | 減った量は平均0.24kg |
とくにひざを伸ばすパワー(すばやく力を出す能力)の低下は「大きい」に当たりました。立ち上がりや歩き出しに関わる力で、この論文が紹介した研究では、10日の安静で椅子からの立ち上がりにかかる時間が12%延びていました(一方、SPPBの点数は10日・14日の安静では変わっていません)。高齢者では、7日間の安静で除脂肪量が1.6kg減り、その半分が脚からだった研究も紹介されています。
高齢者のほうが落ちやすいのか
②では、減った脚の筋肉の量(kg)は高齢者のほうが大きくなりました(ただし、2つの差を統計的に比べてはいません)。一方、4〜14日の固定・安静で40歳超と40歳未満を比べた別の系統的レビュー(8研究・193人)では、1日あたりの減り方(%)に一貫した差は見られませんでした(高齢群0.19〜0.76%/日、若年群0.06〜0.70%/日)。「高齢者のほうが必ず速く落ちる」とまでは言えません。
ぺんた
でも、実際の入院患者さんは24時間ずっと寝ているわけじゃないですよね?
あいす
そこが大事なところ。実験の数字は「一番きびしい条件」で見た数字なんだよね。実際の入院のデータも見てみよう。
③実際の入院では、脚の筋力は落ちても握力は平均すると下がっていなかった
③は、予定外の入院(救急入院など)をした成人患者で、入院中に筋肉がどう変わったかを調べた研究をまとめたメタ分析です(PLoS One 2019)。35研究が入り、集中治療室の患者や神経疾患の患者は除かれています。
| 測ったもの | 入院中の変化(標準化平均差、95%信頼区間) |
|---|---|
| ひざを伸ばす筋力 | −0.24(−0.33〜−0.15) |
| 上腕の筋肉の周径 | −0.17(−0.22〜−0.11) |
| 握力 | +0.10(0.03〜0.16) |
著者らは、ひざを伸ばす筋力と上腕の筋肉について「小さな低下」と表現しています。測る日をそろえた研究(入院から5〜13日後)だけで見ても、ひざを伸ばす筋力は−0.18(−0.29〜−0.08)と同じ向きでした。
一方、握力は平均すると少し上がっていました。ただし研究ごとのばらつきがとても大きく、測る日をそろえた研究だけで見ると差はありませんでした(+0.06、−0.02〜0.15)。「入院で握力が上がる」という意味ではなく、入院中の握力は、平均すると下がっていなかったということです。
なお、握力とひざの筋力は別々の研究をまとめた平均で、同じ人で両方の変化を比べたものではありません。なぜ違う動きになるのかは、著者らも分からないとしています。
現場で意識したい3つのこと
1. 寝込んだあとは、脚の力が落ちている前提で動き方を確かめる △
18〜50歳の健康な人でも、筋力は安静5日の時点で約4%、10日で約10%落ちると推定されていました。しかも初めのうちは、筋肉のやせより力のほうが先に落ちます。入院や発熱などで寝込んだあとは、脚の力が落ちている前提で、立ち上がりや歩き出しを確かめます。高齢の利用者への当てはめは推測です。
根拠:安静5日で−3.6%、10日で−9.9%、初期は筋力の低下が筋肉の量の低下の約4倍(Marusic 2021)◎/在宅の高齢者への当てはめは推測 △
2. 退院後は、握力に加えて脚の筋力も測る △
入院患者のデータでは、ひざを伸ばす筋力は平均すると低下していたのに、握力は平均すると下がっていませんでした。別々の研究の平均ではありますが、握力だけで「落ちていない」と判断すると、脚の低下を見逃すおそれがあります。退院後の初回訪問では、5回立ち上がりなど脚を使う検査を1つ加えます。5回立ち上がりの目安は5回立ち上がりの12秒は何の基準?にまとめています。
根拠:入院中の変化 ひざを伸ばす筋力 −0.24、握力 +0.10(Hartley 2019)◎/「握力では見逃す」は2つの平均からの推測 △
3. 高齢者では「力の強さ」だけでなく「すばやさ」にも目を向ける △
高齢者の安静実験では、ひざを伸ばすパワー(すばやく力を出す能力)の低下が「大きい」に当たりました。立ち上がりの「できる・できない」だけでなく、かかる時間や勢いの変化を見ると、低下に気づきやすくなるはずです。これは実験結果からの推測です。
根拠:高齢者の安静実験でひざを伸ばすパワー 効果量−1.06(Di Girolamo 2021)◎/在宅での見方への当てはめは推測 △
この記事で言えないこと
①について
- 対象は18〜50歳の健康な成人で、高齢者は含まれていません。女性は約320人中41人でした
- 40研究のうち28研究は頭を6度下げた姿勢での安静で、ほとんどが24時間寝たままの厳密な安静です。入院患者の生活とは条件が違います
- 表の数字は、論文が式から示した計算例で、個人の低下量を予測するものではありません。測ったのは主にひざを伸ばす力(等尺性筋力)です
- 安静が5日未満の研究は含まれていないため、1〜4日目の落ち方は分かりません
②について
- 対象は健康な高齢者で、病気で入院した人ではありません
- メタ分析に入った試験は、ランダム化や盲検化の点でバイアスのリスクが高いと評価され、すべての指標で出版バイアス(結果の出た研究ほど論文になりやすい偏り)がある可能性が示されています
- 検討した研究数は、要旨では25、本文では29と記載が食い違っています
- 効果量(標準化された差)で示しているため、「何%落ちる」という形では読めません
③について
- もとの研究の多くは質の低い観察研究で、入院日数・病気の重さ・年齢などの違いを十分に調整していません。著者らも、因果関係は推定できないとし、入院中にどれだけ落ちるかを予測することは避けています
- 入院した時点ですでに筋力が落ちていた可能性があり、著者らは入院中の低下(−0.24)は、実際の低下を小さく見積もっているかもしれないと述べています
- ひざを伸ばす筋力の信頼区間は、要旨では「−0.33〜−0.14」、本文では「−0.33〜−0.15」と記載が食い違っています。この記事では本文の値を使いました
- 集中治療室の患者と神経疾患の患者は含まれていません
補足に使った系統的レビューについて
- 8研究・193人(女性は14人)で、研究間のばらつきが大きく(I²=85%)、メタ分析はしていません
- 「高齢」は40歳超(平均66.3歳)で、固定の方法には寝たままの安静のほか、ギプスや装具(手の筋肉を含む)も含まれます
- エビデンスの確実性(GRADE)は、すべての研究で「非常に低い」と評価されています
共通すること
- ①〜③はいずれもGRADEによる確実性の評価をしていません
- 何%落ちたら生活に影響が出るか(臨床的に意味のある差・MCID)は、どの研究も扱っていません
- 「1週間で10〜15%」のような、よく引かれる数字の最初の出典は、この記事では確認していません。ここで示した数字は、上のレビューで確かめられた範囲です
次の訪問で変えること
退院後の初回訪問では、入院日数を聞いたうえで、握力だけでなく5回立ち上がりなど脚の検査を1つ測る。
根拠:入院中にひざを伸ばす筋力は小さく低下し(−0.24)、握力は平均すると下がっていない(+0.10)◎/18〜50歳の健康な成人の実験で10日の安静により筋力約10%低下(推定)◎/検査の選び方は現場の判断 △
まとめ
- 18〜50歳の健康な成人の厳密な安静実験では、ひざを伸ばす筋力は5日で約4%、10日で約10%、35日で約21%低下する推定。初期ほど速く、力は筋肉のやせより先に落ちる
- 高齢者の安静実験でも、ひざを伸ばすパワーは大きく低下した
- 実際の入院患者では、脚の筋力は小さく低下した一方、握力は平均すると下がっていなかった
- 実験の数字は一番きびしい条件のもの。入院患者にはそのまま当てはめず、脚の検査で確かめる
入院で生活機能そのものがどれだけ落ちるかは入院しただけで生活機能は落ちる、握力が何を映しているかは握力は何を測っているのかにまとめています。
出典
Marusic U, Narici M, Simunic B, Pisot R, Ritzmann R. Nonuniform loss of muscle strength and atrophy during bed rest: a systematic review. Journal of Applied Physiology. 2021;131(1):194-206. DOI: 10.1152/japplphysiol.00363.2020 PMID: 33703945 PMCID: PMC8325614
Di Girolamo FG, Fiotti N, Milanović Z, Situlin R, Mearelli F, Vinci P, Šimunič B, Pišot R, Narici M, Biolo G. The Aging Muscle in Experimental Bed Rest: A Systematic Review and Meta-Analysis. Frontiers in Nutrition. 2021;8:633987. DOI: 10.3389/fnut.2021.633987 PMID: 34422875 PMCID: PMC8371327
Hartley P, Costello P, Fenner R, Gibbins N, Quinn É, Kuhn I, Keevil VL, Romero-Ortuno R. Change in skeletal muscle associated with unplanned hospital admissions in adult patients: A systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2019;14(1):e0210186. DOI: 10.1371/journal.pone.0210186 PMID: 30608987 PMCID: PMC6319740
Hodgson H, Wilkinson M, Bowen S, Giannoudis P, Howard A. Older adults are not more susceptible to acute muscle atrophy after immobilisation compared to younger adults: a systematic review. European Journal of Trauma and Emergency Surgery. 2022;48(2):1167-1176. DOI: 10.1007/s00068-021-01694-0 PMID: 34081160 PMCID: PMC9001571
※本記事は運営者が読み、自身の言葉で要約したものです。
この記事について
本記事は公開されている論文をもとに、あいす・理学療法士(10年目)が要約・解説したものです。原著の内容を完全に再現するものではないため、 臨床判断の際は必ず原著をご確認ください。
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