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評価・測定最終更新 2026-09-13

握力は何を測っているのか|14万人のPURE研究が示した「筋力より予後」の指標

握力は何を測っているのか|14万人のPURE研究が示した「筋力より予後」の指標

初回訪問で握力を測る。多くの方が習慣的にやっていると思います。では、その数字を何の指標として記録しているでしょうか。「筋力の代用」でしょうか。

2015年、17カ国・約14万人を追跡した大規模コホート研究が Lancet に発表されました。この研究を読むと、握力という指標の見え方が変わります。

結論

握力は、筋力の指標であると同時に、全身の予後を映す指標でもあった。

  • 握力が5kg低いごとに、全死亡のハザードが16%高い(ハザード比1.16、95%信頼区間 1.13〜1.20)
  • 心血管死は17%(同 1.17、1.11〜1.24)、心血管以外の死亡も17%(同 1.17、1.12〜1.21)高い
  • 一方、転倒によるけがや骨折とは関連しなかった
  • 握力は、収縮期血圧よりも強い死亡予測因子だった
  • ただし対象は35〜70歳。高齢者に限定した研究ではない
  • 握力を鍛えれば死亡率が下がる、という研究ではない

この研究がやったこと

  • 研究名:PURE(Prospective Urban Rural Epidemiology)研究
  • 対象:17カ国、35〜70歳の成人。2003年1月〜2009年12月に142,861人が登録され、生存状況が判明した139,691人を解析
  • 測定:Jamar型の握力計で測定
  • 追跡期間:中央値4.0年(四分位範囲 2.9〜5.1年)
  • みたもの:全死亡、心血管死、非心血管死、心筋梗塞、脳卒中に加えて、糖尿病の発症、がん、肺炎、肺炎やCOPDでの入院、転倒によるけが、骨折

高所得国から低所得国まで、経済的にも文化的にも幅の広い17カ国を含んでいる点が、この研究の特徴です。

結果:握力が弱い人ほど、早く亡くなっていた

すべて握力が5kg低いごとのハザード比です。

アウトカム ハザード比(95%信頼区間) p値
全死亡 1.16(1.13〜1.20) <0.0001
心血管死 1.17(1.11〜1.24) <0.0001
心血管以外の死亡 1.17(1.12〜1.21) <0.0001
脳卒中 1.09(1.05〜1.15) <0.0001
心筋梗塞 1.07(1.02〜1.11) 0.002

握力が5kg低いだけで、亡くなる勢い(ハザード)が16%高い。信頼区間も1.13〜1.20と狭く、推定は安定しています。

ただし「4年間で亡くなる確率が1.16倍になる」という意味ではありません。実際に亡くなったのは139,691人のうち3,379人(2%)です。もともとまれな出来事の、起こりやすさの比を見ています。

転倒によるけがと骨折は、予測できなかった

ここはリハビリに関わる人ほど押さえておきたいところです。

この研究では、転倒によるけがと骨折について、握力との有意な関連が見つかりませんでした。糖尿病の発症、肺炎やCOPDでの入院も同じです。

握力が低い人は死亡が多い。しかし「握力が低いから転んでけがをする」とは、この研究からは言えません。

血圧よりも、死亡をよく当てていた

この研究でいちばん引用される結果がこれです。

握力は、収縮期血圧よりも、全死亡と心血管死の強い予測因子でした。

血圧は循環器リスクの代表的な指標で、測定も広く行われています。それより握力のほうが死亡をよく予測したというのは、握力という指標の位置づけを考え直させる結果です。

では、握力は何を測っているのか

ここが本題です。

握力は前腕と手の筋力を測っています。しかし前腕の筋力そのものが寿命を決めているとは考えにくいです。にもかかわらず死亡をよく予測するということは、握力がそれ自体より大きな何かを反映していると考えるほうが自然です。

栄養状態、全身の筋量、慢性炎症、併存疾患の蓄積、身体活動量——こうしたものの総和が握力という1つの数字に現れている、という理解です。

サルコペニアの診断基準(AWGS 2019)が握力を筋力の代表として採用しているのも、同じ発想に立っています(在宅でサルコペニアをどう見つけるか)。前腕だけを見ているわけではない、ということです。

つまり握力は「前腕の筋力を測る検査」であると同時に、「その人の全身が今どういう状態にあるかを映す窓」でもある、ということになります。

ここは慎重に読みたい

この研究は、握力を鍛えれば死亡率が下がることを示したものではありません。

観察研究なので、示されたのは関連であって因果ではありません。握力が低い人は死亡リスクが高い、までは言えますが、「握力トレーニングをすれば長生きする」とは言えない設計です。

握力は体温計のようなものだと考えるとしっくりきます。体温計の数字を下げても病気は治りません。ですが数字が高ければ「何かが起きている」と分かる。握力もそれに近い性質を持っています。

測り方:どの握力計で、どんな姿勢で握るか

ぺんた

握力って、強く握るだけですよね。機械が変わっても数字は同じじゃないんですか?

あいす

それがね、機械によっては4〜5kgずれる。5kgの差に意味がある話をしているのに、機械の違いで5kg動いたら、もう読めないよね。

この研究(PURE)が使ったのはJamar(ジャマー)の握力計です。同じコホートの別の論文に、手順がこう書かれています。

  • 腕は体の横に置き、肘を90度に曲げて握力計を持つ
  • 3秒間、できるだけ強く握る
  • 30秒以上あけて、合計3回
  • 当初は利き手ではないほうで測定(途中から両手に変更)

一方、日本の基準値のもとになったコホート研究は、スメドレー式を使い、こう測っています。

日本側の手順

決めごと 手順
機械 スメドレー式の握力計
手 利き手
姿勢 立った姿勢で、腕は体の横に自然に下ろす
握り幅 本人が握りやすいように調節する
注意 握力計が体に触れないように、動かさないように
力の入れ方 息を吐きながら、できるだけ強く握る
回数 1回(コホートによっては2回測って大きいほう)

(「立った姿勢」は英文論文、それ以外は日本語論文の記述です。厚生労働省の介護予防マニュアルにも、同じ手順が載っています)

並べると分かるとおり、手も、肘の角度も、回数も違います。PUREは非利き手・肘90度・3回、日本側は利き手・腕を下ろして・原則1回です。同じ「握力◯kg」でも、同じものを測っているとは限りません。

握力計を替えると、数字が変わる

45〜74歳の118人に、4種類の握力計を順番に使って比べた研究があります。結果はこうでした。

  • 電子式の握力計は、油圧式(Jamar Hydraulic)やバネ式(スメドレー)より4〜5kg高い値が出た
  • 油圧式とバネ式の平均の差は0.2kgだった
  • ただし一人ひとりで見ると、その差は±11kgの幅に広がる(どの組み合わせでも同じ)

同じ118人に、ヨーロッパの基準(EWGSOP2・男性27kg未満/女性16kg未満)を当てはめた別の報告では、「筋力が低い」と判定される人の割合が、男性で3%から22%、女性で3%から15%まで、使った握力計によって変わりました。

握力計を買い替えたら、前の数字と比べてはいけません。5kgの差を語る検査で、機械を替えるだけで5kg動くことがあるからです。

なおこの研究は、4種類すべてを「椅子に座って前腕を肘掛けに乗せた姿勢」で測っています。著者らは「スメドレーは本来立って測るものなので、この結果をそのまま当てはめるには限界がある」と書いています。「油圧式とバネ式は同じ」と読まないほうが安全です。

同じ年齢の人と比べて、強いのか弱いのか

まず、サルコペニアのアジア基準(AWGS2019)が使っている線があります。

基準
男性 28kg未満
女性 18kg未満

これは「サルコペニアを疑う」ための線です(サルコペニアを在宅で見つける)。年齢は考えていません。85歳の方も65歳の方も同じ28kg・18kgで見ます。

そこで、同じ年代の中でどのあたりかを見る表も持っておくと役に立ちます。地域で暮らす65歳以上の日本人を、5地域6つのコホートで統合したデータ(握力を測れたのは4,551人)です。

年齢 男性・真ん中の5分の1 男性・ここを下回ると下位20% 女性・真ん中の5分の1 女性・ここを下回ると下位20%
65〜69歳 34.0〜36.9 31.0 22.0〜23.9 19.0
70〜74歳 31.0〜34.9 27.0 20.0〜22.9 18.0
75〜79歳 29.0〜31.9 25.0 18.0〜19.9 15.0
80〜84歳 26.0〜28.9 23.0 17.0〜18.9 14.0
85歳以上 22.0〜24.9 19.0 14.0〜15.9 11.0

単位はkgです。スメドレー式・利き手・立った姿勢で測った数字なので、別の機械で測った値をそのまま当てはめることはできません。

85歳以上の行は、人数が少ないことに注意してください。男性47人・女性61人しかいません。5分の1あたり10人前後です。

この表を並べると、AWGSの28kg・18kgがどのあたりの線なのかが見えてきます。

  • 男性の28kgは、80〜84歳の「真ん中の5分の1」(26.0〜28.9kg)の上のほう
  • 女性の18kgは、75〜79歳の「真ん中の5分の1」の下端。80〜84歳ならほぼ真ん中

つまり65〜69歳の男性が28kgを切っていたら、それは同年代の下から5分の1(31.0kg未満)よりさらに低いということになります。同じ28kgでも、年齢によって意味がまったく違います。

訪問リハの現場でどう使うか

1. 機械・手・姿勢・回数を固定して、記録に書き添える ◎

5kgの差に意味がある検査で、機械を替えるだけで4〜5kg動きます。だから記録は「握力 22.4kg(スメドレー・右・立位・1回)」の形にします。事業所で握力計を買い替えたときは、その日を境に前の数字と比べないと決めておきます。

2. 下がったときに、筋力以外も見にいく ◎

握力が明らかに落ちたら、「筋力が落ちた」で止めません。食事量は減っていないか、体重は落ちていないか、新しい病気が加わっていないか。全身を見直すきっかけとして扱います。

同じ性質をもつ指標として歩行速度があり、こちらも予後との関連が示されています(歩行速度は「第6のバイタルサイン」)。2つとも落ちているなら、変化はより確からしいと読めます。

3. 「転びやすさ」の根拠には使わない ◎/本人への伝え方は「元気さの目安」まで △

この研究では転倒によるけがとも骨折とも関連しませんでした ◎。握力が低いことを、転倒リスクの説明に使うことはできません。

また「握力が落ちると死亡リスクが上がる」という説明は、事実ではあっても在宅の方には重すぎます。しかも握力を鍛えれば下がるとは言えないので、不安だけが残ります △。「全身の元気さの目安として測っています」くらいが、正確さと配慮の折り合うところだと思います。

この研究の限界

  • 対象は35〜70歳です。訪問リハで出会う80代・90代の方にそのまま当てはまるとは限りません。この点は見落とされやすいので注意が必要です
  • 観察研究であり、因果関係は示せません。握力を鍛えることの効果を検証した研究ではありません
  • 追跡期間は中央値4.0年と、寿命を論じるには比較的短い期間です
  • 17カ国を含む一方、各国の医療水準や生活環境の差が結果にどう影響したかは、この数値からは読み取れません
  • 追跡中に亡くなったのは139,691人のうち3,379人(2%)です。死亡そのものはまれな出来事でした
  • 高所得国では、握力が強いほど「がん」が多いという逆向きの関連が出ています(握力5kg低いごとにハザード比0.916、0.880〜0.953)。中所得国・低所得国では見られませんでした。すべての結果が同じ向きを指しているわけではありません
  • 年代別の目安として引用した日本のデータは2002〜2011年に集められたもので、PURE(2003〜2009年登録)とは国も測り方も違います。数字を直接比べることはできません
  • この研究は全文が無料で読めません。このブログは全文が読める論文だけを使う方針ですが、この記事は抄録で確認できる数値だけを引用しています。そのため次の3点が確認できていません
    • ハザード比が何で調整された値なのか(抄録には「調整後」としか書かれていません)
    • 「収縮期血圧より強い予測因子」と言える根拠の統計量
    • 原著の著者が挙げた限界そのもの(この記事の限界は、抄録から言えることをこちらで整理したものです)
  • 年代別の目安として引用した日本のデータは、入浴・更衣・歩行・食事・排泄のすべてが自立している人で、しかも健診や体力測定に参加した人たちです(案内を送った人のうち参加したのは28.8%)。訪問リハで出会う方より健康な側に偏った集団である点に注意が要ります
  • 握力計の比較研究(118人)の対象は45〜74歳で、高齢者に限った検討ではありません
  • 2015年の研究であり、それ以降の知見は反映されていません

なお、在宅で使う評価項目を目的別に並べた一覧は理学療法の評価項目一覧にまとめています。

次の訪問で変えること

握力の記録を「22.4kg(スメドレー・右・立位・1回)」の形にして、機械と姿勢まで残す。数字が下がったら、筋力ではなく食事量・体重・新しい病気を先に確かめる。本人への説明は「全身の元気さの目安です」までにとどめ、転びやすさの根拠には使わない。

根拠:握力5kg低いごとに全死亡のハザード比1.16(95%信頼区間 1.13〜1.20)◎/転倒によるけが・骨折とは有意な関連なし ◎/機械を替えると4〜5kgずれ、低筋力と判定される割合が男性3〜22%まで変わる ◎/観察研究なので「鍛えれば死亡が減る」は言えない △

まとめ

  • 17カ国・139,691人を中央値4.0年追跡したPURE研究
  • 握力が5kg低いごとに、全死亡のハザードは16%(HR 1.16、95%CI 1.13〜1.20)、心血管死は17%高い
  • 握力は収縮期血圧よりも強い死亡予測因子だった
  • 一方、転倒によるけが・骨折とは関連しなかった。転びやすさの根拠には使えない
  • 電子式の握力計は、油圧式・バネ式より4〜5kg高く出る。機械・手・姿勢・回数を固定して記録する
  • AWGS2019の28kg・18kgは年齢を考えない線。同年代の中での位置は別の表で見る
  • 握力は前腕の筋力であると同時に、栄養・筋量・全身状態を映す窓として機能している
  • ただし観察研究であり、「握力を鍛えれば長生きする」を示したものではない
  • 対象が35〜70歳である点も、現場に持ち込むときは意識したい

出典

Leong DP, Teo KK, Rangarajan S, Lopez-Jaramillo P, Avezum A Jr, Orlandini A, Seron P, Ahmed SH, Rosengren A, Kelishadi R, Rahman O, Swaminathan S, Iqbal R, Gupta R, Lear SA, Oguz A, Yusoff K, Zatonska K, Chifamba J, Igumbor E, Mohan V, Anjana RM, Gu H, Li W, Yusuf S; Prospective Urban Rural Epidemiology (PURE) Study Investigators. Prognostic value of grip strength: findings from the Prospective Urban Rural Epidemiology (PURE) study. The Lancet. 2015;386(9990):266-273. DOI: 10.1016/S0140-6736(14)62000-6 PMID: 25982160

Leong DP, Teo KK, Rangarajan S, Kutty VR, Lanas F, Hui C, et al.; PURE Investigators. Reference ranges of handgrip strength from 125,462 healthy adults in 21 countries: a prospective urban rural epidemiologic (PURE) study. Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle. 2016;7(5):535-546. DOI: 10.1002/jcsm.12112 PMID: 27104109 ※PUREの握力の測定手順は、この論文から引用しています。

Chen LK, Woo J, Assantachai P, Auyeung TW, Chou MY, Iijima K, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. Journal of the American Medical Directors Association. 2020;21(3):300-307.e2. DOI: 10.1016/j.jamda.2019.12.012 PMID: 32033882

Lessof C, Cooper R, Wong A, Bendayan R, Caleyachetty R, Cheshire H, et al. Comparison of devices used to measure blood pressure, grip strength and lung function: A randomised cross-over study. PLoS One. 2023;18(12):e0289052. DOI: 10.1371/journal.pone.0289052 PMID: 38150442

Cooper R, Lessof C, Wong A, Hardy R. The impact of variation in the device used to measure grip strength on the identification of low muscle strength: Findings from a randomised cross-over study. Journal of Frailty, Sarcopenia and Falls. 2021;6(4):225-230. DOI: 10.22540/JFSF-06-225 PMID: 34950813

Seino S, Shinkai S, Fujiwara Y, Obuchi S, Yoshida H, Hirano H, Kim HK, Ishizaki T, Takahashi R; TMIG-LISA Research Group. Reference values and age and sex differences in physical performance measures for community-dwelling older Japanese: a pooled analysis of six cohort studies. PLoS One. 2014;9(6):e99487. DOI: 10.1371/journal.pone.0099487 PMID: 24923425 ※記事中の年代別の表は、この論文の基準値です。

河合恒, 清野諭, 西真理子, 谷口優, 大渕修一, 新開省二, 吉田英世, 藤原佳典, 平野浩彦, 金憲経, 石崎達郎, 高橋龍太郎, TMIG-LISA研究グループ. 大規模コホートデータによる地域高齢者の体力評価シートの作成. 体力科学. 2015;64(2):261-271. DOI: 10.7600/jspfsm.64.261 ※握力の測定手順はこちらから引用しています。

※本記事は上記論文を運営者が読み、自身の言葉で要約したものです。原著の抄録・本文の転載および全訳は行っていません。診断・治療の判断は主治医・担当の専門職にご相談ください。

タグ:握力 / サルコペニア / 評価 / 予後予測 / 基準値 / 訪問リハビリ

この記事について

本記事は公開されている論文をもとに、あいす・理学療法士(10年目)が要約・解説したものです。原著の内容を完全に再現するものではないため、 臨床判断の際は必ず原著をご確認ください。

また、本記事は特定の個人に対する診断・治療の助言ではありません。 症状についてのご相談は主治医・かかりつけの専門職へお願いします。