握力は何を測っているのか|14万人のPURE研究が示した「筋力より予後」の指標
初回訪問で握力を測る。多くの方が習慣的にやっていると思います。では、その数字を何の指標として記録しているでしょうか。「筋力の代用」でしょうか。
2015年、17カ国・約14万人を追跡した大規模コホート研究が Lancet に発表されました。この研究を読むと、握力という指標の見え方が変わります。
結論
握力は、筋力の指標であると同時に、全身の予後を映す指標でもあった。
- 握力が5kg下がるごとに、全死亡リスクは16%上昇(ハザード比1.16、95%信頼区間 1.13〜1.20)
- 心血管死は17%上昇(同 1.17、1.11〜1.24)
- 握力は、収縮期血圧よりも強い死亡予測因子だった
- ただし対象は35〜70歳。高齢者に限定した研究ではない
- 握力を鍛えれば死亡率が下がる、という研究ではない
この研究がやったこと
- 研究名:PURE(Prospective Urban Rural Epidemiology)研究
- 対象:17カ国、35〜70歳の成人。2003年1月〜2009年12月に142,861人が登録され、生存状況が判明した139,691人を解析
- 測定:Jamar型の握力計で測定
- 追跡期間:中央値4.0年(四分位範囲 2.9〜5.1年)
- みたもの:全死亡、心血管死、非心血管死、心筋梗塞、脳卒中
高所得国から低所得国まで、経済的にも文化的にも幅の広い17カ国を含んでいる点が、この研究の特徴です。
結果:握力5kgの差が、これだけの違いになる
すべて握力が5kg低いごとのハザード比です。
| アウトカム | ハザード比(95%信頼区間) | p値 |
|---|---|---|
| 全死亡 | 1.16(1.13〜1.20) | <0.0001 |
| 心血管死 | 1.17(1.11〜1.24) | <0.0001 |
| 脳卒中 | 1.09(1.05〜1.15) | <0.0001 |
| 心筋梗塞 | 1.07(1.02〜1.11) | 0.002 |
握力が5kg低いだけで、全死亡リスクが16%高い。信頼区間も1.13〜1.20と狭く、推定は安定しています。
血圧より強い予測因子だった
この研究でいちばん引用される結果がこれです。
握力は、収縮期血圧よりも、全死亡と心血管死の強い予測因子でした。
血圧は循環器リスクの代表的な指標で、測定も広く行われています。それより握力のほうが死亡をよく予測したというのは、握力という指標の位置づけを考え直させる結果です。
では、握力は何を測っているのか
ここが本題です。
握力は前腕と手の筋力を測っています。しかし前腕の筋力そのものが寿命を決めているとは考えにくいです。にもかかわらず死亡をよく予測するということは、握力がそれ自体より大きな何かを反映していると考えるほうが自然です。
栄養状態、全身の筋量、慢性炎症、併存疾患の蓄積、身体活動量——こうしたものの総和が握力という1つの数字に現れている、という理解です。
つまり握力は「前腕の筋力を測る検査」であると同時に、「その人の全身が今どういう状態にあるかを映す窓」でもある、ということになります。
ここは慎重に読みたい
この研究は、握力を鍛えれば死亡率が下がることを示したものではありません。
観察研究なので、示されたのは関連であって因果ではありません。握力が低い人は死亡リスクが高い、までは言えますが、「握力トレーニングをすれば長生きする」とは言えない設計です。
握力は体温計のようなものだと考えるとしっくりきます。体温計の数字を下げても病気は治りません。ですが数字が高ければ「何かが起きている」と分かる。握力もそれに近い性質を持っています。
訪問リハの現場でどう使うか
1. 「下肢筋力の代用」から「全身状態の指標」へ、記録の意味を変える
握力を測る目的が変わります。歩行や立ち上がりの予測材料としてだけでなく、その方の全身状態を追う指標として記録する。カルテの書き方も「握力◯kg(前回比−3kg)」と、変化を残す形にしておく価値が上がります。
2. 低下したときに、原因を筋力以外にも探す
握力が明らかに落ちたとき、「筋力が落ちた」で止めないほうがいいということになります。食事量は減っていないか、体重は落ちていないか、新しい疾患が加わっていないか。握力の低下を、全身を見直すきっかけとして扱う使い方ができます。
3. 測定条件をそろえる
5kgの差に意味がある研究です。裏を返せば、測り方が雑だと差が読めなくなります。座位か立位か、肘の角度、左右どちらか、何回測って何を採用するか。訪問リハでは環境が毎回違うので、自分なりの手順を固定しておくことが前提になります。
4. ご本人への伝え方に注意する
「握力が落ちると死亡リスクが上がる」という説明は、事実ではあっても在宅の方には重すぎます。しかも握力を鍛えれば下がるとは言えないので、不安だけが残ります。
「全身の元気さの目安として測っています」くらいの伝え方が、正確さと配慮のバランスとして適切だと思います。
この研究の限界
- 対象は35〜70歳です。訪問リハで出会う80代・90代の方にそのまま当てはまるとは限りません。この点は見落とされやすいので注意が必要です
- 観察研究であり、因果関係は示せません。握力を鍛えることの効果を検証した研究ではありません
- 追跡期間は中央値4.0年と、寿命を論じるには比較的短い期間です
- 17カ国を含む一方、各国の医療水準や生活環境の差が結果にどう影響したかは、この数値からは読み取れません
- 本記事では、非心血管死のハザード比を記載していません。確認できた範囲の数値のみを掲載しています
- 2015年の研究であり、それ以降の知見は反映されていません
まとめ
- 17カ国・139,691人を中央値4.0年追跡したPURE研究
- 握力が5kg低いごとに、全死亡リスクは16%(HR 1.16、95%CI 1.13〜1.20)、心血管死は17%上昇
- 握力は収縮期血圧よりも強い死亡予測因子だった
- 握力は前腕の筋力であると同時に、栄養・筋量・全身状態を映す窓として機能している
- ただし観察研究であり、「握力を鍛えれば長生きする」を示したものではない
- 対象が35〜70歳である点も、現場に持ち込むときは意識したい
出典
Leong DP, Teo KK, Rangarajan S, Lopez-Jaramillo P, Avezum A Jr, Orlandini A, Seron P, Ahmed SH, Rosengren A, Kelishadi R, Rahman O, Swaminathan S, Iqbal R, Gupta R, Lear SA, Oguz A, Yusoff K, Zatonska K, Chifamba J, Igumbor E, Mohan V, Anjana RM, Gu H, Li W, Yusuf S; Prospective Urban Rural Epidemiology (PURE) Study Investigators. Prognostic value of grip strength: findings from the Prospective Urban Rural Epidemiology (PURE) study. The Lancet. 2015;386(9990):266-273. DOI: 10.1016/S0140-6736(14)62000-6 PMID: 25982160
※本記事は上記論文を運営者が読み、自身の言葉で要約したものです。原著の抄録・本文の転載および全訳は行っていません。診断・治療の判断は主治医・担当の専門職にご相談ください。
この記事について
本記事は公開されている論文をもとに、あいす・理学療法士(10年目)が要約・解説したものです。原著の内容を完全に再現するものではないため、 臨床判断の際は必ず原著をご確認ください。
また、本記事は特定の個人に対する診断・治療の助言ではありません。 症状についてのご相談は主治医・かかりつけの専門職へお願いします。