5回立ち上がりの12秒は何の基準?|サルコペニアの線と日本の実測値

ぺんた
5回立ち上がりの時間が、基準を超えていました。転倒リスクが高いって書いていいですか?
あいす
その基準、何のために作られた線かは確かめておきたいところだよね。転倒の基準ではないんです。
5回椅子立ち上がりテストで「12秒」という数字はよく使われます。ただ、この線が何を判定するために引かれた数字なのかは、意外と共有されていません。
この記事では、12秒の出どころと、日本の高齢者を実際に測るとその線がどのあたりに来るのかを、原典にあたって整理します。
結論
12秒は「サルコペニアの身体機能低下」の基準であって、転倒を予測するために作られた線ではありません。
- AWGS 2019は、身体機能の低下を6m歩行で1.0m/秒未満・SPPB 9点以下・5回立ち上がり12秒以上のいずれかと定めている
- 日本の地域在住高齢者を測ると、70歳・80歳の平均がほぼ12秒(男性12.2・12.3秒/女性11.7・12.6秒)。結果として、その年代の平均あたりに来る線になっている
- 90歳では5回立てなかった人が19.7%、さらに20秒を超えた人が20.9%。20秒以内に立てた人は6割ほど
- 椅子の高さや手順で秒数は変わる。同じ条件で測り続けることが前提になる
12秒はサルコペニアの基準として作られた
出どころは、アジアのサルコペニア・ワーキンググループ(AWGS)が2019年に出した基準です。身体機能の低下について、こう書かれています。
criteria for low physical performance are 6-m walk <1.0 m/s, Short Physical Performance Battery score ≤9, or 5-time chair stand test ≥12 seconds.
身体機能の低下は、6m歩行で1.0m/秒未満、SPPB 9点以下、5回椅子立ち上がり12秒以上のいずれか、という並びです。AWGS 2019の枠組みでは、筋力(握力)か身体機能のどちらかが低ければ「サルコペニアの可能性」として扱われます。
つまり12秒は、サルコペニアを拾うための線です。転倒する人としない人を分けるために作られた数字ではありません。
AWGS 2019の基準全体は在宅でサルコペニアをどう見つけるかにまとめています。
確認した範囲
AWGS 2019は全文が無料公開されていません。この記事で引用したのは抄録に書かれている範囲です。手順の細部(椅子の高さ、腕の位置など)は確認できていません。
転倒予防の世界ガイドライン(WFG 2022)でも、椅子立ち上がりテストは筋力を見る方法として握力と並べて挙げられており、転倒リスクを分けるための線としては歩行速度(0.8m/秒未満)とTUG(15秒超)が示されています。そちらの流れは転倒リスクはどう評価する?で扱いました。
日本の70歳・80歳の平均は、ほぼ12秒
では、その12秒という線は、日本の高齢者のどのあたりに来るのでしょうか。
日本の地域在住高齢者を年齢をそろえて測ったSONIC研究があります。70歳・80歳・90歳の3つの年齢集団を対象に、握力・歩行速度・5回立ち上がり・タンデム立位・SPPBを測ったものです。90歳の集団だけは、要介護認定を受けている人を除いた690人の値です(70歳・80歳を集めた第1波には参加条件の制限がありません)。
5回立ち上がりの平均(秒)は次のとおりでした。
| 70歳 | 80歳 | 90歳 | |
|---|---|---|---|
| 男性 | 12.2(±3.32/468人) | 12.3(±3.47/436人) | 17.2(±6.73/313人) |
| 女性 | 11.7(±3.46/516人) | 12.6(±3.56/472人) | 17.4(±6.27/273人) |
70歳と80歳では、平均がほぼ12秒です。つまりこの線は、結果としてその年代のまんなかあたりに来ます。なお、これは5回立ち切れた人だけの平均です(90歳では男性313人/女性273人分)。
ここから2つのことが言えます。
- 70代・80代では、12秒以上の人は珍しくない。「12秒以上=例外的に悪い」ではありません
- 一方で、90歳では平均が17秒台です。論文が示した90歳の五分位では、いちばん速い層でも男性12.3秒以下・女性12.7秒以下。つまり12秒未満はおよそ2割で、年代を問わず同じ線で見ると90代の8割前後が該当します
ただし、70歳・80歳・90歳は参加した年も条件も違う別々の集団です。「80歳から90歳で落ちる」は、同じ人を追いかけた変化ではありません(論文も横断研究であることを限界に挙げています)。
ぺんた
年齢で線を分けたほうがよくないですか?
あいす
AWGSは年齢で分けていないんだよね。だからこそ、平均と比べてどうかを自分で持っておくと読み方が変わるところ。
90歳では、5回立てない人が2割いる
SONIC研究でもうひとつ重要なのは、測定できなかった人の割合です。
会場に来た90歳807人のうち、5回立ち上がりができなかった人が19.7%。さらに、20秒を超えた人が20.9%いました。20秒を超えた人は秒数そのものは出ているので、20秒以内に5回立てた人は6割ほどということになります。
ほかの測定と比べると、この多さが際立ちます。90歳で測定できなかった割合は、握力が2.1%、歩行速度が6.7%、タンデム立位が6.6%でした。5回立ち上がりだけが、けた違いに測れていません。
ほかの測定より測れない人が多いこと自体が、この検査の特徴です。ただし論文は「使えない」とは結論していません。5回立てない人が約4分の1いることは、SPPBでいちばん低い点数の層に重なるとして、5回立ち上がりは下肢の筋力を拾うスクリーニングとして使える、90歳でも実用的な方法だ、と述べています。
現場の感覚とも合います。測れなかったこと自体が情報で、無理に数字を出すより「5回続けては立てなかった」と記録するほうが実態を伝えます。
5回立ち上がりの基準値に、日本のデータは入っていない
2026年に、アジア12か国・20コホートのデータをまとめた基準値の論文が出ました。握力・歩行速度・5回立ち上がり・筋肉量・ふくらはぎ周囲径について、年代別・男女別のパーセンタイルを示したものです。
日本のコホートも2つ参加していますが、5回立ち上がりの部分は4つのコホート(CHARLS・IFLS・PHASE・SHARE)から計算されていて、日本は含まれていません。日本人の基準として使うことはできません(論文も、日本のグループは3〜4秒速く終えると述べています)。
参考として、中央値(50パーセンタイル)はこうなっています。
| 年代 | 女性 | 男性 |
|---|---|---|
| 70〜74歳 | 11.2秒 | 10.0秒 |
| 75〜79歳 | 12.2秒 | 10.4秒 |
| 80〜84歳 | 13.2秒 | 10.9秒 |
12秒という線は、女性では75〜79歳の中央値あたりに当たります。一方、男性は80代前半でも中央値が11秒を切っていました。同じ線でも、性別と年代で意味が変わります。
秒数は、測り方で動く
SONIC研究は高さ40cmの椅子を使い、SPPBの採点手順に沿って測っています。論文自身が、「日本の標準的な40cmの椅子は、身長の低い女性には相対的に立ちやすく、男性には立ちにくい可能性がある」「欧米と日本で使う椅子の高さが違うことが、結果の差に影響した可能性がある」と述べています。
椅子の高さが違えば秒数は変わります。腕を組むか、手すりを使うかでも変わります。だからこそ、在宅では同じ椅子・同じ手順で測り続けることが、線と比べること以上に大事になります。
現場で意識したい3つのこと
1. 12秒を超えたら「サルコペニアの可能性」として次を確認する ◎
12秒以上は、AWGS 2019では身体機能の低下に当たり、それだけで「サルコペニアの可能性」になります。そこで止めずに、握力(男性28kg未満・女性18kg未満)も測り、必要なら医師に相談する流れにつなげます。転倒リスクの判定に読み替えないことが、この記事のいちばんの要点です。
根拠:AWGS 2019の身体機能低下の基準(抄録で確認)◎/転倒の基準ではないこと ◎
2. 年代の平均と並べて説明する ◎
「12秒以上でした」だけでは、ご本人にも家族にも強く響きすぎます。70歳・80歳の平均がほぼ12秒だと知っていれば、「年代の平均あたりです」「平均より時間がかかっています」と伝えられます。数字の意味が変わります。
根拠:SONIC研究の平均値(男性12.2・12.3秒/女性11.7・12.6秒)◎
3. 測れなかったときは、秒数の代わりに「できた回数」を残す △
90歳では2割が5回立てません。回数を減らして測り直すのではなく、「2回で座り込んだ」「手すりを使えば3回可能」といった形で記録しておくと、次の訪問で変化を追えます。これはSONIC研究が示した事実(測れない人が多い)からの、現場での工夫です。
根拠:会場に来た90歳807人のうち測定不能19.7%・20秒超20.9% ◎/記録のしかたは現場の判断 △
この記事で言えないこと
- AWGS 2019は全文が無料で読めません。12秒という基準は抄録で確認できますが、その線がどの研究から導かれたのか、手順の細部はこの記事では確認していません
- SONIC研究で要介護認定を受けている人を除いているのは90歳の集団だけです。訪問リハの利用者にそのまま当てはまる平均ではありません
- 測定できなかった割合(19.7%など)の分母は会場に来た90歳807人、平均値の分母は要介護認定を除いた690人で、母集団が違います
- SONIC研究は、90歳女性の5回立ち上がりを抄録と本文では17.8秒(±7.89)、表では17.4秒(±6.27)と記しており、論文内で数値が一致していません(男性は3か所とも17.2秒)。この記事では表の値(17.4秒)を採用しています
- アジアの基準値(2026年)の5回立ち上がりに日本のデータは含まれていません。日本人の基準としては使えません
- 12秒を超えた人がその後どうなるか(転倒・要介護・死亡)を追った研究は、この記事では扱っていません
次の訪問で変えること
5回立ち上がりの秒数を記録するとき、「椅子の高さ」も一緒に残す。
根拠:SONIC研究は40cmの椅子・SPPBの手順で測っており、椅子の高さの違いが結果に影響した可能性を論文自身が述べている ◎/腕の組み方は原典に手順の記載がなく、現場の工夫 △
まとめ
- 12秒はサルコペニアの身体機能低下の基準(AWGS 2019)。転倒の基準ではない
- 日本の地域在住高齢者では、70歳・80歳の平均がほぼ12秒。90歳では17秒台
- 90歳は5回立てない人が19.7%。20秒以内に立てた人は6割ほど
- アジアの基準値(2026年)の5回立ち上がりに、日本のデータは入っていない(4コホートから算出)
- 椅子の高さや手順で秒数は動く。同じ条件で測り続けることが前提
ほかの評価項目の「線の出どころ」は、TUGのカットオフ値13.5秒は使えるのか、歩行速度は「第6のバイタルサイン」、握力は何を測っているのか、SPPBは何を予測できるのかにまとめています。在宅で使う評価項目の全体像は理学療法の評価項目一覧をご覧ください。
出典
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※本記事は運営者が読み、自身の言葉で要約したものです。引用した英文は原文の一部です。
この記事について
本記事は公開されている論文をもとに、あいす・理学療法士(10年目)が要約・解説したものです。原著の内容を完全に再現するものではないため、 臨床判断の際は必ず原著をご確認ください。
また、本記事は特定の個人に対する診断・治療の助言ではありません。 症状についてのご相談は主治医・かかりつけの専門職へお願いします。