論文を、現場で使えるかたちに。在宅リハのエビデンスをやさしくまとめています📚
呼吸循環

口腔ケアで肺炎は減るのか|6つの試験が分けた「発症」と「肺炎で亡くなること」

口腔ケアで肺炎は減るのか|6つの試験が分けた「発症」と「肺炎で亡くなること」

訪問先で、口の中が気になることがあります。食後なのに食べかすが残っている、義歯が汚れている、においがする。リハビリの時間にそこまで踏み込むべきか迷いながら、看護師に伝えるだけで終わらせた日もあります。

「口腔ケアをすると誤嚥性肺炎が減る」は、日本の研究から広まった話です。では、その後の研究を積み上げると、どこまで言えるようになったのでしょうか。

結論

ふだんの口腔ケアに歯科専門職(またはその指導を受けた職員)の関与を上乗せしても、肺炎になる人の数が減るとは言えませんでした。ただし発熱と、肺炎による死亡のほうには差が出ています。

  • 6つのランダム化比較試験・6,244人。肺炎の発生については、専門職による口腔ケアとふだんの口腔ケアで差があるとは言えなかった(確実性は低い)
  • 肺炎による死亡は、24か月時点の2試験454人でリスク比0.43(95%信頼区間 0.25〜0.76)。ただし18か月の大きな試験(2,513人)では差があるとは言えず、結果は割れています
  • 2年間で累積7日を超える発熱があった人は、リスク比0.49(0.33〜0.75)。こちらは1試験366人の二次的な結果
  • 比べられているのは「専門職のケア」と「ふだんのケア」であって、「口腔ケアをしない」と比べた試験は1つもありません

このレビューが調べたこと

Cochraneが2022年に出した、介護施設で起きる肺炎を口腔ケアで防げるかを調べたレビューです。2018年版の更新版にあたります。

対象になったのはランダム化比較試験6本、参加者6,244人(解析に使えたのは5,976人分)。6本のうち3本が日本の研究で、ほかはアメリカ2本、フランス1本です。追跡期間は8か月から30か月(予定)まで、試験によってばらつきがあります。

比べているのは次の2つです。

中身
専門職による口腔ケア 歯科医師・歯科衛生士、または口腔ケアの専門的な知識をもつ介助者の指導や介助つきで行うケア。歯・粘膜・舌・義歯のブラッシング、歯間ブラシ、電動ブラシ、洗口剤、定期的な歯科受診など
ふだんの口腔ケア 基本的な口腔ケアのうち、歯科の専門職や、口腔ケアの専門的な知識をもつ職員の指導・介助がつかないもの。実際の中身は試験ごとに違い、本人だけで磨いていた試験もあれば、施設職員が介助していた試験もある

つまりこのレビューが問うているのは、「口腔ケアをするかしないか」ではなく、「専門職が関わると上乗せの効果があるか」です。ここを取り違えると、結果の意味が逆に読めてしまいます。

結果:肺炎になる人の数は、はっきり減ったとは言えない

肺炎の発生を報告したのは5試験・5,018人分です。試験ごとに割りつけの単位(個人か施設か)も、効果の測り方(発生率比・ハザード比・リスク比)も追跡期間も違ったため、レビューチームは数値を統合しませんでした。個別に並べると、こうなります。

試験(国・追跡) 結果
Yoneyama 2002(日本・24か月) 21/184人(11.4%)対 34/182人(18.7%)。リスク比0.61(0.37〜1.01)
Higashiguchi 2017(日本・8か月・嚥下障害のある人。リハビリ病院なども含む) 7.8% 対 17.7%。ハザード比0.446(試験側は信頼区間を報告していない。P=0.056)
Bourigault 2011(フランス・18か月) ハザード比0.65(0.29〜1.46)
Zimmerman 2020(アメリカ・24か月) 調整後の発生率比0.84(片側95%信頼区間の上限1.12)
Juthani-Mehta 2015(アメリカ・中間解析で中止) 調整後のハザード比1.12(0.84〜1.50)

方向はばらばらで、信頼区間が報告されている試験では、いずれも1をまたいでいます(Higashiguchi は試験側が信頼区間を出しておらず、レビューチームが計算した値も「実際より狭く出る」と注記されています)。レビューチームの評価は「差があるという十分な証拠はない」で、エビデンスの確実性はバイアスのリスクと不精確さを理由に2段階下げて低とされました。

注目してほしいのは1行目です。口腔ケアと肺炎の話で必ず引かれる2002年の日本の研究も、信頼区間で見ると0.37〜1.01とぎりぎり1を含んでいます。なお原著の抄録は「肺炎・発熱日数・肺炎による死亡が有意に減った」と書いています。上のリスク比は、肺炎になった人の割合からCochraneが計算し直した値です。

結果:発熱と、肺炎による死亡のほうに差が出た

肺炎の発生では差が出ませんでしたが、別のアウトカムでは違いました。

アウトカム 結果 元になったデータ
肺炎による死亡(24か月) リスク比0.43(0.25〜0.76) 2試験・454人
7日を超える発熱(2年間の累積・37.8℃以上) リスク比0.49(0.33〜0.75) 1試験・366人
全死因の死亡 差があるとは言えなかった(確実性は非常に低) 3試験・12〜30か月

肺炎による死亡が減るかもしれない、というのがこのレビューで唯一、信頼区間が1をまたがなかった主要アウトカムです。ただし確実性は低のままです(バイアスのリスクと結果のばらつきで2段階下げ)。

格下げの理由は、バイアスのリスクと結果のばらつきです。そしてこのアウトカムを報告した試験はもう1本あります。2,513人を18か月追った試験で、そちらでは差があるとは言えませんでした(効果の測り方と追跡期間が違うため、リスク比0.43の計算には入っていません)。0.43のほうは2試験454人にすぎず、しかも片方の試験は死亡の評価で38%が脱落しています。

副次的なところでは、認知機能(MMSE)の2年間の低下が、専門職ケア群で−1.5点(標準偏差4.9・170人)、ふだんのケア群で−3.0点(標準偏差5.9・152人)、差は1.5点(0.32〜2.68)でした。ただしこの差が生活の変化として感じ取れるものかどうかは、このレビューからは判断できません。

なぜ発症では差が出ず、死亡で差が出たのか。レビューはその理由まで答えていません。肺炎の診断基準が試験ごとに違うこと、発症の把握には見逃しが入りやすいことは考えられますが、ここは推測の域を出ません。

「口腔ケアをしない」と比べた試験は、1つもない

このレビューでいちばん大事な一文かもしれません。レビューチームははっきりこう書いています。口腔ケアと「口腔ケアなし」を比べた試験は見つからなかった。

だから、このレビューの結果は「口腔ケアをしても肺炎は防げない」とは読めません。比較の土俵に上がっているのは、ふだんのケアに専門職の関与を上乗せした分だけです。ふだんのケアそのものをやめた場合にどうなるかは、誰も試していない(そして倫理的に試しにくい)というのが現状です。

現場でどう使うか

訪問の理学療法士は口腔ケアを実施する立場ではありません。それでも、週に何度も口の中を見る機会がある職種ではあります。

1. 体温表の「37.8℃以上」が何日あったかを数えて、記録に残す(発熱が減ったこと自体は◎/数えることの効果は△)

肺炎の診断とは別に、発熱でも差が出ています。2年間で累積7日を超える発熱が、リスク比0.49(0.33〜0.75)。肺炎の診断は医師の領分ですが、熱が出た日を数えることは誰にでもできます。

ただし、これは二次的なアウトカムで、確実性の格付けもされていません。根拠は1試験366人だけです。そして論文が示したのは「専門職のケアで発熱が減った」ことであって、「数えると役に立つ」ことではありません。数えること自体は現場の判断です。

2. 口の中に汚れが残っていたら、「肺炎予防のため」ではなく「口を清潔に保つため」として歯科につなぐ(◎と△の混在)

専門職のケアで口の汚れが改善したことは論文が示しています(改善した人の割合でリスク比2.81、1.39〜5.69)。ただし汚れの指標そのものの値は、専門職ケア群2.6(標準偏差0.8・109人)対 ふだんのケア群2.5(標準偏差0.8・90人)で、ほとんど差がありません。リスク比2.81は「改善したか悪化したか」に分け直したほうの数字です。一方で、そこから肺炎の発症が減るところまでは確かめられていません。依頼するときの言葉を「肺炎を防ぐために」にしてしまうと、根拠を超えます。

3. 「自分で磨けています」を確認の終点にしない(△ 推測を含む)

このレビューが「ふだんのケア」と呼んでいるのは、歯科の専門職やその知識をもつ職員が関わらないケアです。本人だけで磨いていた試験も、職員が介助していた試験もありました。専門職が関わると口の汚れの改善が上回った、という結果が出ているのはこのうち本人だけで磨いていた試験です。それでも、磨けているかどうかは動作ではなく口の中を見て確かめるほうがよい——ここは論文の結果からの推測です。

この研究の限界

  • 6試験すべてがバイアスのリスク高と評価されています。口腔ケアは介入を隠せないため、参加者と実施者には何をしているか分かってしまうからです(結果を判定する側の盲検化は可能で、3試験は実際に行われていました)
  • 効果の測り方と追跡期間がそろっておらず、肺炎の発生については統合解析すらできていません
  • 肺炎による死亡のリスク比0.43は、2試験454人という小さなデータに基づきます。片方の試験は脱落38%
  • 対象は介護施設などで暮らす人です(1試験はリハビリ病院なども含み、その試験だけ嚥下障害のある人に限られています)。在宅で家族と暮らす人、自分で通院できる人にそのまま当てはめられるかは分かりません
  • どんな口腔ケアが良いのか(誰が・何を使って・どのくらいの頻度で)は、このレビューからは決められません。レビューチーム自身が「現在の証拠から最適な手順は決められない」と書いています
  • 費用対効果と生活の質を直接測った試験はありません。有害事象を報告したのも1試験だけで、試験の手順に関連した重篤なものは0件、重篤でないものが64件でした(内容は歯ぐきからの出血、口内炎、歯の着色など)

次の訪問で変えること

熱が出た日を数えて記録に残す。ついでに一度、口の中を見る。

根拠:専門職のケアで、2年間に累積7日を超える発熱が減った=リスク比0.49(0.33〜0.75)◎(ただし二次アウトカム・1試験366人)/数えることと口を見ることの効果そのものは未検証 △

まとめ

  • 介護施設での口腔ケアについて、6試験6,244人をまとめたCochraneレビュー(2022年)。専門職によるケアとふだんのケアの比較である
  • 肺炎になる人の数では、差があるとは言えなかった(確実性は低)
  • 肺炎による死亡はリスク比0.43(0.25〜0.76)、7日を超える発熱はリスク比0.49(0.33〜0.75)と、こちらには差が出ている。ただし肺炎による死亡は、より大きな試験では差が出ておらず結果が割れている
  • 「口腔ケアをしない」と比べた試験は存在しない。このレビューは、口腔ケアをやめてよい理由にはならない

嚥下や呼吸の話は、ALSの呼吸筋トレーニングでも触れています。退院直後の状態把握については入院しただけで生活機能は落ちるが関連します。

出典

Cochrane レビュー:

  • Cao Y, Liu C, Lin J, Ng L, Needleman I, Walsh T, Li C. Oral care measures for preventing nursing home-acquired pneumonia. Cochrane Database of Systematic Reviews 2022;11(11):CD012416. DOI: 10.1002/14651858.CD012416.pub3 / PMID: 36383760

本文で個別に挙げた試験のうち、原著の書誌を確認できたもの:

  • Yoneyama T, Yoshida M, Ohrui T, Mukaiyama H, Okamoto H, Hoshiba K, Ihara S, Yanagisawa S, Ariumi S, Morita T, Mizuno Y, Ohsawa T, Akagawa Y, Hashimoto K, Sasaki H; Oral Care Working Group. Oral care reduces pneumonia in older patients in nursing homes. Journal of the American Geriatrics Society 2002;50(3):430-433. DOI: 10.1046/j.1532-5415.2002.50106.x / PMID: 11943036

そのほか本文の表に挙げた Higashiguchi 2017・Bourigault 2011・Juthani-Mehta 2015・Zimmerman 2020・Adachi 2002 は、上記Cochraneレビューが含めた試験の呼称です。本記事に載せた数値はすべて、このレビューが抽出・再解析したものを引いています(各試験の原著にはあたっていません)。

本記事は運営者が読み、自身の言葉で要約したものです。

タグ:誤嚥性肺炎 / 口腔ケア / 訪問リハビリ / 高齢者 / Cochrane

この記事について

本記事は公開されている論文をもとに、あいす・理学療法士(10年目)が要約・解説したものです。原著の内容を完全に再現するものではないため、 臨床判断の際は必ず原著をご確認ください。

また、本記事は特定の個人に対する診断・治療の助言ではありません。 症状についてのご相談は主治医・かかりつけの専門職へお願いします。