入院しただけで生活機能は落ちる|2,293人のデータが示す「年齢と廃用」の関係
「入院前は歩けていたのに、退院したら別人のように動けなくなっていた」。
訪問リハで退院直後の利用者さんを担当すると、こう感じることが少なくありません。病気そのものは治っている、あるいは落ち着いている。それなのに、生活機能だけが大きく落ちている。これは偶然でも、その人固有の問題でもなく、入院という体験そのものが持つ、構造的なリスクです。
それを大規模な追跡データで示したのが、Covinskyらが2003年に発表した研究です。70歳以上の入院患者2,293人を対象に、入院前・入院時・退院時のADL(日常生活動作)の変化を追跡しています。
結論
入院という出来事そのものが、高齢者のADLを落とす強い要因になる。
- 入院した高齢者の**35%**が、2週間前の状態から退院時までにADLを落とす
- ADL低下の割合は年齢とともに急上昇:70代前半23%→90歳以上63%
- 一方、入院前からすでに落ちていた人の20%は入院中に機能を取り戻していた
- 退院直後こそ、機能低下を前提に評価・介入を組む必要がある
この研究がやったこと
- 対象:2つの病院の一般内科に入院した70歳以上の患者2,293人(平均年齢80歳、女性64%)
- 方法:入院の2週間前・入院時・退院時のADL(食事・排泄・移動・入浴など基本的な生活動作)を前向きに追跡
- みたもの:ADLがどの時点で、どれだけ低下したか。年齢によって差があるか
結果:3人に1人がADLを落とす。年齢とともに急増する
| 時期 | ADL低下の内訳 |
|---|---|
| 全体でのADL低下(2週間前→退院時) | 35% |
| うち、入院前からすでに低下していた | 23% |
| うち、入院中に新たに低下した | 12% |
そして、年齢による差が際立っています。
| 年齢層 | ADL低下の割合 |
|---|---|
| 70〜74歳 | 23% |
| 75〜79歳 | 28% |
| 80〜84歳 | 38% |
| 85〜89歳 | 50% |
| 90歳以上 | 63% |
(いずれも P<.001で、年齢との関連は統計的にはっきりしています)
90歳以上では、6割を超える人が入院を機にADLを落とすという結果です。「高齢だから仕方ない」で片づけられがちですが、ここまで明確な傾斜があると知っておくことは、退院後の関わり方を変える材料になります。
一方で、希望が持てるデータもあります。入院前からすでにADLが落ちていた人のうち、20%は入院中に機能を取り戻していました。 適切な医療・ケアが入れば、入院中でも機能は戻り得るということです。ただし、最高齢層ではこの回復がより難しいことも示されています。
訪問リハの現場でどう使うか
1. 「退院=元の生活に戻れる」ではないと前提を置く
3人に1人がADLを落として退院するというデータは、初回訪問の時点で「入院前の生活ができるはず」という前提を持たないための根拠になります。特に85歳以上の利用者さんでは、大きな機能低下が起きていて当然という目線で評価を始めるべきです。
2. 年齢別の想定リスクを頭に入れておく
90歳以上では63%という割合を知っていれば、「思ったより動けない」ことへの驚きが減り、家族への説明もしやすくなります。「高齢の方が入院すると、多くの場合これくらい機能が落ちるものです」と、データに基づいて伝えられます。
3. 「入院前の状態」を初回評価で必ず聞き取る
このデータは「2週間前」との比較で成り立っています。訪問開始時に、家族・本人から「入院前は何ができていたか」を具体的に聞き取ることが、目標設定の土台になります。現在の状態だけを見ていると、本来戻せる機能を見落とします。
4. 退院後こそ、早期からの積極的な関わりを
入院中に機能を取り戻せた人が2割いたという事実は、廃用は必ずしも不可逆ではないことを示しています。退院直後の訪問リハが、入院中に戻りきらなかった機能を、生活の場でさらに取り戻す機会になり得ます。
この研究の限界(ここを外すと誤読します)
- 2003年、米国の2病院での研究です。医療体制・平均在院日数などが異なる日本の現状に、そのまま数字を当てはめられるわけではありません。
- 対象は「一般内科」への入院です。手術後やICU管理を要した患者など、他の入院形態には当てはまらない可能性があります。
- ADLの低下要因(安静臥床・低栄養・せん妄・疾患そのものなど)を分解した分析ではありません。「なぜ落ちるか」より「どれだけ落ちるか」を示した研究です。
- 退院後、地域や在宅でどこまで機能が回復するかは、この研究の追跡範囲(入院期間中)を超えており、別に検討する必要があります。
まとめ
- 高齢者が入院すると、35%がADLを落として退院する
- ADL低下の割合は年齢とともに急増し、**90歳以上では63%**に達する
- 一方で、入院前から低下していた人の20%は入院中に機能を取り戻す
- 訪問リハは「入院前の状態」を基準に、退院直後からの積極的な関わりで、戻せる機能を取りこぼさないことが役割になる
出典
Covinsky KE, Palmer RM, Fortinsky RH, Counsell SR, Stewart AL, Kresevic D, Burant CJ, Landefeld CS. Loss of independence in activities of daily living in older adults hospitalized with medical illnesses: increased vulnerability with age. Journal of the American Geriatrics Society. 2003;51(4):451–458. DOI: 10.1046/j.1532-5415.2003.51152.x PMID: 12657063
※本記事は上記論文を運営者が読み、自身の言葉で要約したものです。原著の抄録・本文の転載および全訳は行っていません。診断・治療の判断は主治医・担当の専門職にご相談ください。
この記事について
本記事は公開されている論文をもとに、あいす・理学療法士(10年目)が要約・解説したものです。原著の内容を完全に再現するものではないため、 臨床判断の際は必ず原著をご確認ください。
また、本記事は特定の個人に対する診断・治療の助言ではありません。 症状についてのご相談は主治医・かかりつけの専門職へお願いします。