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フレイル

フレイルに運動介入は効くのか|1,519人のSPRINTT試験が示した歩行障害の予防効果

「このまま何もしなければ、そのうち歩けなくなりますよ」——フレイルの利用者さんに、そう伝えたくなる場面があります。ですが逆に、「では運動をすれば歩けなくなるのを防げるのか」と問い返されたとき、どれくらいの確からしさで答えられるでしょうか。

2022年、この問いに正面から挑んだ大規模ランダム化比較試験がBMJに発表されました。ヨーロッパ11か国・1,519人を最長36か月追跡した SPRINTT 試験です。

結論

身体的フレイルとサルコペニアのある高齢者への運動+栄養の複合介入は、「400mを自力で歩けなくなる」リスクを22%下げた。ただし効果が確認できたのは、もともと身体機能が低かった層に限られる

  • 移動障害の発生:介入群46.8% vs 対照群52.7%(ハザード比0.78、95%信頼区間0.67〜0.92)
  • SPPBスコアは24か月で0.8点、36か月で1.0点、介入群のほうが高く保たれた
  • 一方、比較的機能が保たれていた層(SPPB 8〜9点)では効果が示されなかった(ハザード比1.25、95%信頼区間0.79〜1.95)
  • 平均追跡期間は26.4か月。数か月単位で結果が出る話ではない

この研究がやったこと

SPRINTT(Sarcopenia and Physical fRailty IN older people: multi-componenT Treatment strategies)は、ヨーロッパ11か国16施設で行われた評価者盲検のランダム化比較試験です。2016年1月から2019年10月31日まで実施されました。

  • 対象:地域在住の70歳以上、1,519人(うち女性1,088人)。平均年齢78.9歳(標準偏差5.8)
  • 組み入れ基準
    • SPPB(Short Physical Performance Battery)が3〜9点の低機能
    • 四肢除脂肪量が低い(サルコペニア)
    • 400mを自力で歩けること
  • 割り付け:介入群760人、対照群759人
  • 介入群:中強度の身体活動を週2回はセンターで、在宅では週4回まで。活動量計(アクチメトリ)のデータをもとに個別に調整し、あわせて個別の栄養カウンセリングを実施。最長36か月継続
  • 対照群月1回の「健康な老化」に関する教育プログラム
  • 主要アウトカム移動障害(400mを15分未満で自力歩行できない状態)
  • 追跡期間:平均26.4か月(標準偏差9.5)

注目したいのは、組み入れの時点で「400mを自力で歩ける」ことが条件になっている点です。つまり対象は、まだ歩けているが、このままだと歩けなくなりそうな人たち。予防的介入の効果を見るための設計になっています。

そして解析は、ベースラインのSPPBスコアで2つの層に分けられました。SPPB 3〜7点の層が主要解析、8〜9点の層は探索的解析という位置づけです。

結果:機能が低い層でだけ効果が出た

SPPB 3〜7点の層(主要解析・1,205人)

アウトカム 介入群 対照群 効果量(95%信頼区間)
移動障害 283/605(46.8%) 316/600(52.7%) HR 0.78(0.67〜0.92)P=0.005
持続的な移動障害 127/605(21.0%) 150/600(25.0%) HR 0.79(0.62〜1.01)P=0.06

主要アウトカムである移動障害は、介入群で22%リスクが低下しました(ハザード比0.78)。信頼区間の上限が0.92と1をまたいでいないため、統計的にも有意な差です。

絶対差で見ると52.7%-46.8%=5.9ポイント。単純に計算すれば、およそ17人に介入して1人の移動障害を防げる計算になります。

一方、「持続的な移動障害」(一度なったきり回復しない状態)については、ハザード比0.79と方向は同じですが、信頼区間の上限が1.01とわずかに1をまたいでおり、統計的に有意とは言えませんでした(P=0.06)。

身体機能・筋量の変化

アウトカム 時点 差(95%信頼区間)
SPPBスコア 24か月 +0.8点(0.5〜1.1)P<0.001
SPPBスコア 36か月 +1.0点(0.5〜1.6)P<0.001
握力の低下(女性のみ) 24か月 0.9kg少ない(0.1〜1.6)P=0.028
四肢除脂肪量の減少(女性のみ) 24か月 0.24kg少ない(0.10〜0.39)P<0.001
四肢除脂肪量の減少(女性のみ) 36か月 0.49kg少ない(0.26〜0.73)P<0.001

SPPBは介入群のほうが高く保たれ、その差は36か月時点で1.0点に広がっています。握力と四肢除脂肪量については、女性でのみ有意な差が報告されました。

ここで押さえておきたいのは、これらの数字が「介入群で改善した」ではなく、多くが「介入群のほうが低下が小さかった」という形で示されている点です。フレイルの高齢者を2年、3年と追えば、集団としては機能が下がっていくのが自然です。その下り坂を緩やかにできた、というのがこの試験の描いた絵です。

SPPB 8〜9点の層(探索的解析・314人)

アウトカム 介入群 対照群 効果量(95%信頼区間)
移動障害 46/155(29.7%) 38/159(23.9%) HR 1.25(0.79〜1.95)P=0.34

比較的機能が保たれていた層では、効果が示されませんでした。ハザード比は1.25と数値上はむしろ介入群で高いものの、信頼区間が0.79〜1.95と広く1をまたいでおり、「差があるとは言えない」というのが正確な読み方です。人数が314人と少なく、探索的な解析であることも踏まえる必要があります。

安全性

重篤な有害事象は介入群237/605(39.2%)、対照群216/600(36.0%)、リスク比1.09(95%信頼区間0.94〜1.26)でした。数値上は介入群でやや多いものの、統計的な差はありません。フレイル高齢者に2年以上の運動プログラムを行っても、有害事象が明らかに増えるわけではなかった、と読めます。

訪問リハの現場でどう使うか

1. 「誰に効くか」がはっきりしている

この試験の最大の学びは、効果の有無が対象者の機能レベルで分かれたことだと思います。SPPB 3〜7点、つまりすでに明らかな機能低下がある層では効いた。SPPB 8〜9点の、比較的動けている層では示されなかった。

訪問リハの利用者さんの多くはSPPBで言えば低い側に入ります。その意味では、このデータは現場に近い層で得られたものだと言えます。逆に、地域の元気な高齢者向けの介護予防教室に、この結果をそのまま持ち込むのは筋が違います。

2. SPPBを測っておく価値

介入の効果を見積もる材料としても、経過を説明する材料としても、SPPBが軸になっています。バランス・歩行速度・椅子立ち上がりの3項目で、特別な機器は要りません。初回評価で測っておくと、「この方はSPRINTTでいうとどの層か」という補助線が引けます。

24か月で0.8点、36か月で1.0点という差は、単発のセッションで動く数字ではありません。だからこそ、定期的に測り直して長い目盛りで変化を見る必要があります。

3. 「週2回+在宅週4回まで」という運動量

介入の中身は、センターでの週2回に加えて、在宅で週4回まで。活動量計のデータで個別調整もしています。訪問リハの週1〜2回だけでは、この量には届きません。

つまりこの結果を現場で再現しようとするなら、訪問時間そのものより「訪問していない日に何をしてもらうか」の設計が本体になります。自主トレメニューを渡して終わりではなく、実行できているかを次の訪問で確認し、調整する。地味ですが、そこが効果量を左右する部分だと考えるべきでしょう。

4. 栄養とセットである点を見落とさない

介入は運動だけでなく、個別の栄養カウンセリングを含んでいます。この試験からは「運動だけでどこまで効くか」は分けて取り出せません。実際、握力や四肢除脂肪量の差が女性で出ていることを考えても、筋量に働きかけるには栄養面の関与が無視できないはずです。

訪問の現場では、管理栄養士が入っていないケースも多いと思います。少なくとも食事量やたんぱく質の摂取状況を聞き取り、必要ならケアマネジャーや主治医につなぐところまでは、リハ職の守備範囲に入れておきたいところです。

5. 時間軸を関係者と共有する

平均追跡26.4か月。効果が現れるまでに年単位の時間がかかっています。3か月の短期目標で「歩行障害の予防」を掲げるのは、このデータからすると無理があります。

ご家族やケアマネジャーに説明する際も、「数か月で劇的に良くなる話ではなく、2年先の状態を変えるための積み重ねです」という時間軸を最初に共有しておくと、途中で「効果が見えない」と中断される事態を避けやすくなります。

この研究の限界

  • 効果が示されたのはSPPB 3〜7点の層のみです。8〜9点の層では差がなく、ハザード比の点推定値はむしろ1.25でした。ただしこちらは314人の探索的解析であり、「効果がない」と証明されたわけではありません
  • 対象はヨーロッパ11か国の地域在住高齢者です。組み入れ時点で400mを自力歩行できることが条件のため、訪問リハの利用者さんの中でも比較的動ける層に相当します。日本の在宅現場にそのまま当てはまるとは限りません
  • 介入はセンター通所を軸としたプログラムであり、訪問リハビリテーションそのものの効果を検証した試験ではありません
  • 運動と栄養の複合介入のため、どちらがどれだけ寄与したかは分離できません
  • 評価者は盲検化されていますが、参加者と実施者は盲検化できません。対照群が月1回の教育のみだったことによる期待効果の差も、完全には排除できません
  • 握力・四肢除脂肪量の有意差は女性でのみ報告されています。男性で同じことが言えるかは分かりません
  • 重篤な有害事象は介入群でやや多く(39.2% vs 36.0%)、統計的な差はないものの、ゼロリスクではありません

まとめ

  • 身体的フレイルとサルコペニアのある70歳以上1,519人を対象に、運動+栄養の複合介入を最長36か月行った大規模RCT
  • SPPB 3〜7点の層では、移動障害の発生が46.8% vs 52.7%、ハザード比0.78(95%信頼区間0.67〜0.92)と22%のリスク低下
  • SPPBスコアは24か月で0.8点、36か月で1.0点、介入群のほうが高く保たれた
  • SPPB 8〜9点の層では効果が示されず、「誰に対する介入か」を選ぶ必要がある
  • 週2回のセンター+在宅週4回まで、平均26.4か月という「量」と「期間」があっての結果である点を忘れない

出典

Bernabei R, Landi F, Calvani R, Cesari M, Del Signore S, Anker SD, Bejuit R, Bordes P, Cherubini A, Cruz-Jentoft AJ, Di Bari M, Friede T, Gorostiaga Ayestarán C, Goyeau H, Jónsson PV, Kashiwa M, Lattanzio F, Maggio M, Mariotti L, Miller RR, Rodriguez-Mañas L, Roller-Wirnsberger R, Rýznarová I, Scholpp J, Schols AMWJ, Sieber CC, Sinclair AJ, Skalska A, Strandberg T, Tchalla A, Topinková E, Tosato M, Vellas B, von Haehling S, Pahor M, Roubenoff R, Marzetti E. Multicomponent intervention to prevent mobility disability in frail older adults: randomised controlled trial (SPRINTT project). BMJ. 2022 May 11;377:e068788. DOI: 10.1136/bmj-2021-068788 PMID: 35545258

※本記事は上記論文を運営者が読み、自身の言葉で要約したものです。原著の抄録・本文の転載および全訳は行っていません。診断・治療の判断は主治医・担当の専門職にご相談ください。

タグ:フレイル / サルコペニア / 運動介入 / SPPB / 訪問リハビリ

この記事について

本記事は公開されている論文をもとに、あいす理学療法士(10年目)が要約・解説したものです。原著の内容を完全に再現するものではないため、 臨床判断の際は必ず原著をご確認ください。

また、本記事は特定の個人に対する診断・治療の助言ではありません。 症状についてのご相談は主治医・かかりつけの専門職へお願いします。