理学療法の評価項目一覧|在宅で使う6つの指標と、それぞれが答えられる問い

評価項目は、たくさん知っているほど良いわけではありません。
在宅の40分で全部は測れません。そして検査にはそれぞれ「答えられる問い」と「答えられない問い」があります。転倒を予測したいのか、予後を知りたいのか、介入の効果を測りたいのか。目的が違えば選ぶ道具も変わります。
この記事は、ICE LABでこれまで原典にあたって整理してきた評価項目を、「何を知りたいときに使うか」で並べ直した一覧です。数値の根拠は各記事にまとめてあります。
結論
評価項目は「測れるもの」ではなく「答えたい問い」から選ぶ。
- 予後を知りたい → 歩行速度・握力(どちらも死亡リスクとの関連が大規模データで示されている)
- 効果を測りたい → 6分間歩行(呼吸器疾患のMIDは25m)・SPPB
- 転倒を予測したい → TUG単独では足りない(感度0.32)
- サルコペニアを拾いたい → AWGS 2019の3項目(ふくらはぎ周囲径・握力・椅子立ち上がり)
目的から選ぶ早見表
| 知りたいこと | 使う指標 | 目安の数値 |
|---|---|---|
| 予後(死亡リスク) | 歩行速度 | 0.1m/秒速いごとに死亡リスク約12%低い |
| 予後(死亡リスク) | 握力 | 5kg下がるごとに全死亡リスク16%上昇 |
| 転倒リスク | TUG | 単独では不十分(感度0.32・AUC 0.57) |
| 介入の効果 | 6分間歩行 | 呼吸器疾患のMIDは25m |
| 移動機能の変化 | SPPB | 12点満点。1点の差が意味を持つ |
| サルコペニア | AWGS 2019 | 握力 男28kg・女18kg未満ほか |
以下、それぞれ何を測っている道具なのかを補足します。
予後を知りたいとき
歩行速度
3万4千人のデータで、0.1m/秒速いごとに死亡リスクがおよそ12%低いという関連が示されています。75歳の10年生存率は、歩く速さによって男性19〜87%、女性35〜91%と大きく分かれました。
在宅で測りやすく、変化も追いやすい指標です。ただしこれは観察研究であって、「速く歩けば寿命が延びる」という因果ではありません。
詳しくは歩行速度は「第6のバイタルサイン」にまとめています。
握力
14万人のPURE研究で、握力が5kg下がるごとに全死亡リスクが16%上昇(ハザード比1.16、95%信頼区間1.13〜1.20)。心血管死は17%上昇でした。収縮期血圧よりも強い死亡予測因子だった、という結果です。
前腕の筋力を見ているのではなく、全身状態の代理指標として機能しています。ただし対象は35〜70歳で、高齢者に限定した研究ではありません。
詳しくは握力は何を測っているのかに書いています。
歩行速度と握力は、どちらも「簡単に測れて予後を映す」という同じ性質を持ちます。2つとも落ちているなら、変化はより確からしいと読めます。
同じ「測るだけで予後を映す」指標として、動いている時間そのものもあります。加速度計で実測した解析では、座位時間がもっとも長い群の死亡リスクが2.63倍でした(座位時間は寿命に関わるのか)。
SPPBについても、10〜12点に対して7〜9点で死亡のオッズ比が1.50という報告があります(SPPBは何を予測できるのか)。線を引くのは10点未満かどうかです。
転倒を予測したいとき
TUG は単独では足りない
2,314人のメタ分析で、TUGの転倒予測は感度0.32(95%信頼区間0.14〜0.57)。転倒する人の約7割を見逃します。ROC曲線下面積も0.57で、偶然(0.5)から大きくは離れていません。
ここで大事なのは、TUGが悪い検査だという話ではないことです。原典を読むとTUGは "a test of basic functional mobility" として作られた検査で、転倒予測器として設計されたものではありません。著者らの結論は「地域在住の高齢者では、転倒リスク評価としてはもう使うべきではない」というもので、否定されたのは使い道であって、検査そのものではありません。
移動能力の変化を追う道具としては有用です。転倒リスクの判定に使うなら、他の情報と組み合わせる必要があります。
詳しくはTUGは転倒を予測できるのかに書いています。
片脚立ちも同じで、転倒を追った研究では、5秒以下の線で拾えたのは、けがをする転倒をした人の3分の1ほどでした。運動器不安定症の「15秒」を含め、それぞれの線で何が確かめられているかは片脚立ちは何秒なら危ない?にまとめています。
転倒リスクをどういう順番で見ていくか(転倒を聞く → 重さを確かめる → 歩行速度を測る → 3つに分ける)は、世界ガイドラインの流れとして転倒リスクはどう評価する?|世界ガイドラインWFG 2022の「一本の流れ」にまとめています。
介入の効果を測りたいとき
6分間歩行距離
「何m伸びたら意味があるのか」という問いに答えられるのがこの指標です。呼吸器疾患におけるMID(意味のある最小の差)は25m(95%信頼区間24〜26m、I²=0%)。シャトルウォーキングテストなら48mです。
ただし注意点があります。518人のCOPD患者では、6分間歩行が30m以上伸びた人は43.7%にとどまった一方、健康状態(SGRQ)が基準を超えて改善した人は61.6%いました。歩行距離が伸びなくても本人の実感が改善していることがある、ということです。1つの指標に判定を委ねきらないほうが安全です。
詳しくはCOPDのリハビリの評価項目にまとめています。
SPPB
バランス・歩行・椅子立ち上がりを合わせた12点満点の指標です。1,519人のSPRINTT試験では、介入群と対照群の差が24か月で0.8点、36か月で1.0点でした。1点の差が、移動障害の発生率の違いとして表れる水準です。
同じ試験で、比較的機能が保たれていた層(SPPB 8〜9点)では効果が示されませんでした(ハザード比1.25、95%信頼区間0.79〜1.95)。どの層に使うかで意味が変わります。
詳しくはフレイルに運動介入は効くのかに書いています。
サルコペニアを拾いたいとき
AWGS 2019
在宅で実施できる3項目で拾えます。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| ふくらはぎ周囲径 | 男性34cm・女性33cm未満 |
| 握力 | 男性28kg・女性18kg未満 |
| 椅子立ち上がり | 5回で12秒以上 |
これは診断の枠組みであって、治療効果を示すものではありません。拾ったあと栄養と運動につなげるところまでが在宅の役割になります。
詳しくは在宅でサルコペニアをどう見つけるかにまとめています。
5回椅子立ち上がりの「12秒」が何の基準なのかは5回立ち上がりの12秒は何の基準?|サルコペニアの線と日本の実測値で扱っています。
選ぶときに外さない3つのこと
1. その検査が本来何のために作られたかを確認する
TUGが分かりやすい例です。転倒予測器として使うと精度が足りませんが、移動能力の検査としては機能します。本来の用途と現場での使われ方がズレていることは珍しくありません。
2. 1つの指標に判定を委ねない
6分間歩行が伸びなくてもQOLが改善していることがあります。歩行速度と握力が両方落ちているなら確からしい、というように、複数を組み合わせて読むほうが誤りが減ります。
3. 「変化が意味を持つ幅」を知っておく
MIDやカットオフを知らないと、測っても解釈できません。6分間歩行の25m、SPPBの1点、握力の男28kg・女18kg。この数字を持っているかどうかで、同じ検査の価値が変わります。
40分の訪問でどう組み立てるか
全部は測れません。現実的な順番を書いておきます。
初回は「予後の指標」から
歩行速度と握力を先に取ります。どちらも1〜2分で終わり、あとから比較できる基準値になります。この2つを初回に取っていないと、半年後に「良くなったのか」を数字で言えません。
目的が決まってから、目的用の指標を足す
- 転倒の相談が出たら → TUGだけで判断せず、環境と生活歴も合わせて見る
- 呼吸器で介入の効果を示したいなら → 6分間歩行(伸び幅25mを基準に)
- 体重減少や食事量の低下が気になるなら → AWGS 2019の3項目
毎回測るものと、節目で測るものを分ける
歩行速度のように短時間で済むものは毎回でも取れます。SPPBや6分間歩行は負担があるので、開始時・3か月・6か月のような節目に限るほうが続きます。測ること自体が目的にならないよう、測る回数も設計に含めます。
確認してください
ここで挙げた数値は、いずれも研究で示された集団の傾向です。目の前の利用者さんに当てはまるかは別の判断になります。
カットオフを下回ったからといって、それだけで方針を決めないでください。評価の解釈と方針の決定は、主治医・担当の専門職と共有したうえで行ってください。
まとめ
- 評価項目は「測れるもの」ではなく「答えたい問い」から選ぶ
- 予後を知りたいなら歩行速度・握力、効果を測りたいなら6分間歩行・SPPB
- TUGは単独では転倒を予測できない(感度0.32)。移動能力の検査としては有用
- サルコペニアはAWGS 2019の3項目で拾える
- どの指標も、変化が意味を持つ幅(MID・カットオフ)とセットで持つ
各指標の詳しい根拠は、上のリンク先にそれぞれまとめています。数値はすべて原典にあたって確認したものです。
出典
この記事で挙げた数値の一次情報です。
歩行速度 — Studenski S, et al. Gait speed and survival in older adults. JAMA. 2011;305(1):50–58. DOI: 10.1001/jama.2010.1923 / PMID: 21205966
握力 — Leong DP, et al. Prognostic value of grip strength: findings from the Prospective Urban Rural Epidemiology (PURE) study. The Lancet. 2015;386(9990):266–273. DOI: 10.1016/S0140-6736(14)62000-6 / PMID: 25982160
TUG — Barry E, et al. Is the Timed Up and Go test a useful predictor of risk of falls in community dwelling older adults: a systematic review and meta-analysis. BMC Geriatrics. 2014;14:14. DOI: 10.1186/1471-2318-14-14 / PMID: 24484314
TUGの本来の用途 — Podsiadlo D, Richardson S. The timed "Up & Go": a test of basic functional mobility for frail elderly persons. Journal of the American Geriatrics Society. 1991;39(2):142–148.
6分間歩行のMID — Daynes E, et al. Determining the minimum important differences for field walking tests in adults with long-term conditions: a systematic review and meta-analysis. European Respiratory Review. 2025;34(176):240198. DOI: 10.1183/16000617.0198-2024 / PMID: 40436612
指標間の食い違い — Augustin IML, et al. Multidimensional outcome assessment of pulmonary rehabilitation in traits-based clusters of COPD patients. PLOS ONE. 2022;17(2):e0263657. DOI: 10.1371/journal.pone.0263657 / PMID: 35176055
SPPB — Bernabei R, et al. Multicomponent intervention to prevent mobility disability in frail older adults: randomised controlled trial (SPRINTT project). BMJ. 2022;377:e068788. DOI: 10.1136/bmj-2021-068788 / PMID: 35545258
AWGS 2019 — Chen LK, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. Journal of the American Medical Directors Association. 2020;21(3):300–307.e2. DOI: 10.1016/j.jamda.2019.12.012 / PMID: 32033882
※本記事は上記の論文を運営者が読み、自身の言葉で要約・整理したものです。原著の転載および全訳は行っていません。評価の解釈および治療方針の判断は、主治医・担当の専門職にご相談ください。
この記事について
本記事は公開されている論文をもとに、あいす・理学療法士(10年目)が要約・解説したものです。原著の内容を完全に再現するものではないため、 臨床判断の際は必ず原著をご確認ください。
また、本記事は特定の個人に対する診断・治療の助言ではありません。 症状についてのご相談は主治医・かかりつけの専門職へお願いします。