在宅でサルコペニアをどう見つけるか|AWGS 2019 診断基準を現場の道具に落とす

「なんとなく弱ってきている」を、どう言葉にするか。
在宅の利用者さんを見ていて「筋肉が落ちてきたな」と感じることは多いはずです。でもそれをカルテや報告書に書くとき、「サルコペニアの疑い」と書いていいのか、その根拠は何か、と問われると迷います。
ここに具体的な基準を与えてくれるのが、アジアのサルコペニア・ワーキンググループ(AWGS)が2019年に出した基準の改訂版です。ヨーロッパの基準(EWGSOP)も有名ですが、AWGSはアジアの人を対象にした基準として作られています。
結論
在宅でサルコペニアを「可能性がある」ところまでなら、特別な機器なしで拾える。
- 拾い上げ:ふくらはぎ周囲径 男性34cm・女性33cm未満、または SARC-F 4点以上
- 筋力か身体機能のどちらかが低いだけで「サルコペニアの可能性(possible sarcopenia)」:握力 男性28kg・女性18kg未満、5回椅子立ち上がり12秒以上など
- 「サルコペニア」と診断するには筋力と筋肉量の両方が要る。筋肉量を測れない在宅で書けるのは「可能性」まで
- 基準の線は年齢で分けていない。5回立ち上がりの12秒は、日本の70歳・80歳を測った研究の平均とほぼ同じ(測り方が同じとは限らない)
- 基準は見つけるための枠組みで、治療効果を示したものではない
この文書が決めたこと
- 何か:アジア各国の専門家が、2014年の基準を見直してまとめた合意文書(コンセンサス)
- 変わったこと:握力の線と身体機能の線を見直し、病院と地域とで別々の手順を示した。どちらの手順も拾い上げ(スクリーニング)から始まる
- 新しく入ったもの:「サルコペニアの可能性(possible sarcopenia)」という区分。プライマリケアや地域の健康づくりの場で使うためのもので、早めに生活習慣への介入を始められるように、という位置づけです
論文というより「みんなでこう決めましょう」という取り決めなので、ここでは基準の数値そのものが中身になります。
AWGS 2019の基準:拾い上げ・筋力と身体機能・筋肉量
ぺんた
握力が18kgを切っていたら、報告書に「サルコペニア」って書いていいんですか?
あいす
在宅なら「サルコペニアの可能性」までだね。サルコペニアと言い切るには筋肉量も測る必要があるから。言葉を1つ足すだけで、報告書の正確さがかなり変わるよ。
AWGS 2019が示した基準を、見るものごとに並べます。細かい手順の順番や分岐は、この記事では確認できた範囲(抄録)だけを書いています。
拾い上げ(スクリーニング):どれか1つ
| 方法 | 基準 |
|---|---|
| ふくらはぎ周囲径 | 男性 34cm未満/女性 33cm未満 |
| SARC-F | 4点以上 |
| SARC-CalF | 11点以上 |
筋力と身体機能
| 見るもの | 方法 | 基準 |
|---|---|---|
| 筋力 | 握力 | 男性 28kg未満/女性 18kg未満 |
| 身体機能 | 6m歩行 | 1.0m/秒未満 |
| 身体機能 | 5回椅子立ち上がり | 12秒以上 |
| 身体機能 | SPPB | 9点以下 |
この12秒がどこから来た数字で、日本の高齢者のどのあたりに来るのかは5回立ち上がりの12秒は何の基準?|サルコペニアの線と日本の実測値にまとめています。
筋力か身体機能のどちらかが低いだけの状態を「サルコペニアの可能性」とします。AWGSはこれを、プライマリケアや地域の健康づくりの場で使うための区分としています。在宅の訪問リハに当てはめるのは、この記事の読み替えです。
筋肉量
| 測り方 | 基準(筋肉量を身長の2乗で割った値) |
|---|---|
| DXA | 男性 7.0kg/m²未満/女性 5.4kg/m²未満 |
| BIA(体組成計) | 男性 7.0kg/m²未満/女性 5.7kg/m²未満 |
「サルコペニア」は、加齢に伴って筋肉量が減ったことに加えて、筋力か身体機能(またはその両方)が低い状態と定義されています。筋力と筋肉量は、確定診断にはどちらも欠かせないとされています。
在宅では多くの場合、筋肉量を測れません。書けるのは「サルコペニアの可能性」までです。
測り方:ふくらはぎ周囲径とSARC-F
ふくらはぎ周囲径
AWGSと同じ男性34cm・女性33cmという線を提案した日本の研究があります。日本人526人(40〜89歳)で、立った姿勢で、ふくらはぎのいちばん太いところを測り、DXAで測った筋肉量と比べて、どこで線を引くとよく当たるかを調べたものです。
ただし、AWGSがこの研究から線を取ったのか、AWGS自身が立って測るよう求めているのかは、この記事では確認できていません(どちらも全文が読めないため)。
この研究での当たり具合は、男女でかなり違います。なお、ここでの「筋肉量が少ない」は若い日本人の平均から大きく下回ることを基準にしていて、AWGSのDXAの線(男性7.0・女性5.4)と同じ基準かは確認できていません。
| 筋肉量が少ない人を拾えた割合(感度) | 少なくない人を正しく外せた割合(特異度) | |
|---|---|---|
| 男性(34cm) | 88% | 91% |
| 女性(33cm) | 76% | 73% |
女性では、筋肉量が少ない人のおよそ4人に1人を見逃し、少なくない人のおよそ4人に1人を拾ってしまうということです。
在宅では、ベッドに寝たまま測る場面もあります。この研究は立って測った値を使っています。寝たまま測った値や、むくみのある足で測った値をこの線に当てはめてよいかは、この記事で引いた研究では確かめられていません △。
SARC-Fは「5つの質問・10点満点」
SARC-Fは、本人に聞く質問票です。各0〜2点、合計0〜10点で、4点以上を拾い上げの対象にします。
| 項目 | 聞くこと | 0点 | 1点 | 2点 |
|---|---|---|---|---|
| 力 | 約4.5kg(10ポンド)のものを持ち上げたり運んだりするのは、どのくらい難しいか | 難しくない | いくらか難しい | とても難しい・できない |
| 歩行の補助 | 部屋の中を歩くのは、どのくらい難しいか | 難しくない | いくらか難しい | とても難しい・補助具を使う・人の手を借りないとできない |
| 椅子から立つ | 椅子やベッドから移るのは、どのくらい難しいか | 難しくない | いくらか難しい | とても難しい・補助具を使う・助けがないとできない |
| 階段 | 10段の階段を上るのは、どのくらい難しいか | 難しくない | いくらか難しい | とても難しい・できない |
| 転倒 | この1年で何回転んだか | 0回 | 1〜3回 | 4回以上 |
SARC-Fの元の研究では、点数と筋肉量との関連は弱く(相関係数−0.20)、身体機能の検査との関連も強くはありませんでした(−0.34)。筋肉量を当てる道具ではなく、「困りごとから拾う入り口」と考えるほうが実態に合っています。
その線は、同年代のどこに当たるのか
AWGSの線は、65歳にも90歳にも同じ数字を使います。そこで、日本の高齢者のデータと並べてみます。それぞれの詳しい表と注意点は、リンク先の記事にまとめています。
| AWGSの線 | 日本の高齢者のデータと並べると |
|---|---|
| 握力 男性28kg未満 | 65〜69歳なら、同年代の下から5分の1(31.0kg未満)よりさらに低い。80〜84歳なら真ん中の5分の1(26.0〜28.9kg)の上のほう(握力の記事) |
| 握力 女性18kg未満 | 70〜74歳の「下から5分の1」の線(18.0kg未満)と同じ。80〜84歳ならほぼ真ん中(握力の記事) |
| 5回立ち上がり 12秒以上 | 70歳の平均は男性12.2秒・女性11.7秒、80歳は男性12.3秒・女性12.6秒。90歳は男性17.2秒・女性17.4秒(立ち上がりをやり切れた人だけの平均) |
| SPPB 9点以下 | 70歳・80歳の平均は10〜11点。90歳は男性8.3点・女性7.5点(SPPBの記事) |
| 6m歩行 1.0m/秒未満 | 日本の年代別の表は測る距離が違うので、同じ土俵では並べられない(歩行速度の記事) |
5回立ち上がりとSPPBの数字は、70歳・80歳・90歳を会場で測ったSONIC研究のものです。90歳は要介護認定を受けている人を除いていますが、70歳・80歳でも除いているかは論文の中で記述が食い違っていて確認できませんでした。参加したのは、声をかけた人の約2割です。また、SONICの5回立ち上がりがAWGSと同じ手順かは確認できていません。
そのうえで並べてみると、5回立ち上がりの12秒は、SONIC研究の70歳・80歳の平均とほぼ同じです △。90歳では、立ち上がりをやり切れた人の平均でさえ、12秒とSPPB9点の線に当てはまっています。
ここからは運営者の考えですが、同じ「基準に当てはまった」でも、65歳と90歳では重さが違うと読むのが自然だと思います △。65〜69歳の男性が握力28kgを切っていたら、それは同年代の中でもはっきり低い、ということです。ただし同年代の中での位置によって予後や対応が変わるかは、ここで引いたどの研究も調べていません。
訪問リハの現場でどう使うか
1. 報告書に書くのは「サルコペニアの可能性」まで。どの項目が低かったかも書く ◎
確定診断には筋力と筋肉量の両方が要るので ◎、筋肉量を測れない在宅では「サルコペニア」と言い切れません。「サルコペニアの可能性(握力16.2kg・女性)」のように、どの項目で当てはまったかを添えます。次に測る人が、同じ項目で追えるようにするためです。
2. ふくらはぎは測った条件を書き添える。女性の33cmは当たり具合が落ちると知っておく ◎/△
34cm・33cmを提案した日本の研究は、立った姿勢で、いちばん太いところを測っています。立てない日や、むくみが強い日に測ったときは、「臥位で測定」「浮腫あり」と記録に残します △(その条件で線に当てはめてよいかは、ここで引いた研究では確かめられていません)。女性の33cmは、4人に1人を見逃し、4人に1人を余計に拾う当たり具合です ◎。
3. 年齢と並べて読み、拾ったら運動と栄養につなげる ◎/△
基準に当てはまったら、同年代のデータと並べてどのくらい低いのかを見ます △(運営者の判断で、年齢での読み分けを検証した研究ではありません)。そのうえで、AWGSは運動と栄養補給を治療の中心に置いています ◎。ただしAWGS自身が、生活習慣への介入の長期的な効果にはさらに研究が必要だと書いています △。
栄養を足す意味については筋トレにプロテインを足す意味はあるのかにまとめています。プロテインだけでも筋肉量と歩行速度は改善した一方、握力と椅子立ち上がりは変わらず、すでに筋トレをしている人に足した上乗せ効果は示されなかったという結果でした。
この基準の限界(ここを外すと誤読します)
- これは見つけるための枠組みであって、「この基準に当てはまれば運動で治る」という治療効果を示したものではありません。
- 確定診断には筋肉量の測定(DXA・BIA)が必要です。在宅でできるのは「可能性がある」と言うところまでです。
- AWGS 2019の本文は無料で読めません。このブログは全文が読める文書だけを使う方針ですが、この記事は抄録で確認できる数値だけを引用しています。測定の細かい手順(握力の姿勢や回数など)は、AWGS本文からは確認していません。
- AWGSの抄録からは、拾い上げ・筋力と身体機能・筋肉量をどの順番で、どう分岐させるかの細かい流れまでは確認できません。この記事では基準の一覧として並べています。
- 34cm・33cmを提案した日本の研究も全文が無料で読めず、抄録の範囲(40〜89歳の526人・立位・最大周囲・感度と特異度)だけを引用しています。対象者の健康状態は抄録に書かれていません。
- SARC-Fの項目と点数は、アメリカのコホート研究で使われた形です。そのうち1つは平均60歳前後のアフリカ系アメリカ人、もう1つは参加時点で元気な人たちが対象でした。また、元の研究では点数と筋肉量との関連は弱い(相関係数−0.20)という結果でした。
- 「同年代のどこに当たるか」の表は、AWGSとは別の研究のデータを並べたものです。測り方も対象も違うので、目安として読んでください。日本のデータは、健診や会場での測定に来られた、比較的元気な人たちのものです。SONIC研究の90歳女性の5回立ち上がりは、論文の中で17.4秒と17.8秒の2通りの記載があり、この記事は表の値(17.4秒)を採っています。
- カットオフはアジアの集団の統計値です。個々の利用者さんの「もともとの体格」を無視して、数字だけで判断しないようにします。
次の訪問で変えること
報告書の「サルコペニア疑い」を「サルコペニアの可能性(握力◯kg)」に書き換え、どの項目で当てはまったかを添える。ふくらはぎは測った姿勢とむくみの有無を書く。基準に当てはまったら、年齢と並べてどのくらい低いかも見る。
根拠:筋力か身体機能のどちらかが低いだけの状態が「サルコペニアの可能性」、確定診断には筋力と筋肉量の両方が必要(AWGS 2019)◎/34cm・33cmを提案した日本の研究は立位・最大周囲で、女性は感度76%・特異度73% ◎/在宅への当てはめ、臥位・浮腫のある足での当てはめは未検証 △/5回立ち上がり12秒がSONIC研究の70歳・80歳の平均とほぼ同じ(測り方が同じかは未確認)△/介入の長期効果はさらに研究が必要とAWGS自身が記載 △
まとめ
- AWGS 2019は、病院と地域で別々の手順を示し、どちらも拾い上げ(ふくらはぎ・SARC-F)から始まる
- 筋力か身体機能のどちらかが低いだけなら「サルコペニアの可能性」。診断には筋力と筋肉量の両方が要る
- 主な数字:ふくらはぎ 男34cm・女33cm未満/SARC-F 4点以上/握力 男28kg・女18kg未満/6m歩行 1.0m/秒未満/5回立ち上がり 12秒以上/SPPB 9点以下
- 34cm・33cmを提案した日本の研究は立位・いちばん太いところで測っている。女性の33cmは当たり具合が落ちる
- SARC-Fは筋肉量との関連が弱い。困りごとから拾う入り口として使う
- 線は年齢で分けていない。5回立ち上がり12秒は、SONIC研究の70歳・80歳の平均とほぼ同じなので、年齢と並べて読むのが安全(ただし測り方が同じかは未確認)
なお、在宅で使う評価項目を目的別に並べた一覧は理学療法の評価項目一覧にまとめています。
出典
Chen LK, Woo J, Assantachai P, Auyeung TW, Chou MY, Iijima K, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. Journal of the American Medical Directors Association. 2020;21(3):300–307.e2. DOI: 10.1016/j.jamda.2019.12.012 PMID: 32033882
Kawakami R, Murakami H, Sanada K, Tanaka N, Sawada SS, Tabata I, et al. Calf circumference as a surrogate marker of muscle mass for diagnosing sarcopenia in Japanese men and women. Geriatrics & Gerontology International. 2015;15(8):969-976. DOI: 10.1111/ggi.12377 PMID: 25243821 ※ふくらはぎ周囲径の測り方と感度・特異度は、この論文の抄録から引用しています。
Malmstrom TK, Miller DK, Simonsick EM, Ferrucci L, Morley JE. SARC-F: a symptom score to predict persons with sarcopenia at risk for poor functional outcomes. Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle. 2016;7(1):28-36. DOI: 10.1002/jcsm.12048 PMID: 27066316 ※SARC-Fの項目と点数のつけ方は、この論文から引用しています。
Matsumoto K, Gondo Y, Masui Y, Yasumoto S, Yoshida Y, Ikebe K, Arai Y, Kabayama M, Kamide K, Akasaka H, Ishizaki T. Physical performance reference values for Japanese oldest old: a SONIC study. BMC Geriatrics. 2022;22(1):748. DOI: 10.1186/s12877-022-03299-7 PMID: 36100911 ※5回立ち上がりとSPPBの年齢別の平均は、この論文から引用しています。
Seino S, Shinkai S, Fujiwara Y, Obuchi S, Yoshida H, Hirano H, Kim HK, Ishizaki T, Takahashi R; TMIG-LISA Research Group. Reference values and age and sex differences in physical performance measures for community-dwelling older Japanese: a pooled analysis of six cohort studies. PLoS One. 2014;9(6):e99487. DOI: 10.1371/journal.pone.0099487 PMID: 24923425 ※握力の年代別の五分位は、この論文から引用しています。
※本記事は上記の文書・論文を運営者が読み、自身の言葉で要約したものです。原著の抄録・本文の転載および全訳は行っていません。診断・治療の判断は主治医・担当の専門職にご相談ください。
この記事について
本記事は公開されている論文をもとに、あいす・理学療法士(10年目)が要約・解説したものです。原著の内容を完全に再現するものではないため、 臨床判断の際は必ず原著をご確認ください。
また、本記事は特定の個人に対する診断・治療の助言ではありません。 症状についてのご相談は主治医・かかりつけの専門職へお願いします。