論文を、現場で使えるかたちに。在宅リハのエビデンスをやさしくまとめています📚
フレイル

在宅でサルコペニアをどう見つけるか|AWGS 2019 診断基準を現場の道具に落とす

「なんとなく弱ってきている」を、どう言葉にするか。

在宅の利用者さんを見ていて「筋肉が落ちてきたな」と感じることは多いはずです。でもそれをカルテや報告書に書くとき、「サルコペニアの疑い」と書いていいのか、その根拠は何か、と問われると迷います。

ここに具体的な基準を与えてくれるのが、アジアのサルコペニア・ワーキンググループ(AWGS)が2019年に出した診断基準の改訂版です。ヨーロッパの基準(EWGSOP)が有名ですが、AWGSはアジア人の体格データをもとにしている点で、日本の現場にはこちらが合います。

結論

サルコペニアの拾い上げは、特別な機器なしで在宅でも始められる

  • ふくらはぎ周囲径・握力・椅子立ち上がりの3つで拾える(AWGS 2019)
  • 目安:ふくらはぎ 男34cm・女33cm未満/握力 男28kg・女18kg未満/椅子立ち上がり 12秒以上
  • ただしこれは診断の枠組みであり治療効果を示すものではない
  • 拾ったら栄養・運動につなげるところまでが在宅の役割

この文書がやったこと

  • 何か:アジア各国の専門家が、サルコペニアの診断基準を最新のデータで見直してまとめた合意文書(コンセンサス)
  • 特徴:病院だけでなく、地域・在宅・プライマリケアでも使えるように、機器の要らない拾い上げ(スクリーニング)の道筋を示した

論文というより「みんなでこう決めましょう」という取り決めなので、ここでは診断の数値そのものが中身になります。

在宅でまず使う3つの数字

AWGS 2019は、地域・在宅の場面では次の流れを推奨しています。高価な機器(DXAやBIA)がなくても始められるのがポイントです。

ステップ1:拾い上げ(どれか1つでOK)

方法 基準 備考
ふくらはぎ周囲径 男性 34cm 未満/女性 33cm 未満 メジャー1本でできる
SARC-F 5項目で 4点以上 5つの質問だけ
SARC-CalF 11点以上 上の2つを組み合わせたもの

ステップ2:筋力・身体機能をみる

方法 基準
握力 男性 28kg 未満/女性 18kg 未満
歩行速度(6m) 1.0m/秒 未満
5回椅子立ち上がり 12秒以上
SPPB 9点以下

握力計と、6mの距離、椅子が1脚あれば、在宅の居間でそのまま測れる項目ばかりです。

ふくらはぎにメジャーを巻く、握力を測る、椅子から5回立ってもらう。この3つだけでも「サルコペニアの疑いあり」と根拠をもって言えるようになります。

訪問リハの現場でどう使うか

1. 初回評価に「ふくらはぎ周囲径」を必ず入れる

メジャー1本、10秒で終わります。男性34cm・女性33cmという数字を覚えておけば、その場で「基準を下回っている」と判断できます。継続して測れば、介入で戻ってきているかの指標にもなります。

2. SARC-Fは家族にも聞ける

SARC-Fは「重いものを持つのがつらいか」「部屋を歩くのがつらいか」「椅子から立つのがつらいか」「階段を上るのがつらいか」「この1年で転んだか」を尋ねるものです。本人が難しければ家族に聞いても、状態の共有になります。

3. 5回椅子立ち上がりは「時間を口に出す」

12秒以上が基準です。測りながら「今12秒でしたね、少し時間がかかっています」と本人・家族に伝えると、運動の必要性が自分ごとになります。

4. 「疑い」で終わらせず、次につなげる

AWGSはあくまで拾い上げの枠組みです。拾ったら、栄養(たんぱく質)とレジスタンス運動につなげるところまでが在宅の役割です。

この基準の限界(ここを外すと誤読します)

  • これは診断の枠組みであって、「この基準に当てはまれば運動で治る」という治療効果を示したものではありません。 介入の効果は別の研究で確認する必要があります。
  • 確定診断には本来、筋量の測定(DXA・BIA)が必要です。在宅でできるのは「強く疑う」ところまでで、そこは正直に書くべきです。
  • 握力計がない在宅もあります。その場合は握力を飛ばし、歩行速度・椅子立ち上がりで代える判断が要ります。
  • カットオフはアジア人集団の統計値です。個々の利用者さんの「以前からの体格」を無視して数字だけで判断しないこと。

まとめ

  • サルコペニアの拾い上げは、ふくらはぎ周囲径・握力・椅子立ち上がりの3つで在宅でも始められる
  • AWGS 2019の主な数字:ふくらはぎ 男34cm・女33cm未満/握力 男28kg・女18kg未満/歩行 1.0m/秒未満/椅子立ち上がり 12秒以上
  • ただしこれは診断の枠組み。拾ったあと栄養・運動につなげるところまでが現場の仕事
  • 確定診断には筋量測定が必要で、在宅では「疑い」までと正直に扱う

出典

Chen LK, Woo J, Assantachai P, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. Journal of the American Medical Directors Association. 2020;21(3):300–307.e2. DOI: 10.1016/j.jamda.2019.12.012 PMID: 32033882

※本記事は上記論文を運営者が読み、自身の言葉で要約したものです。原著の抄録・本文の転載および全訳は行っていません。診断・治療の判断は主治医・担当の専門職にご相談ください。

タグ:サルコペニア / フレイル / 評価 / 訪問リハビリ / AWGS

この記事について

本記事は公開されている論文をもとに、あいす理学療法士(10年目)が要約・解説したものです。原著の内容を完全に再現するものではないため、 臨床判断の際は必ず原著をご確認ください。

また、本記事は特定の個人に対する診断・治療の助言ではありません。 症状についてのご相談は主治医・かかりつけの専門職へお願いします。