論文を、現場で使えるかたちに。在宅リハのエビデンスをやさしくまとめています📚
転倒予防最終更新 2026-09-26

転倒リスクはどう評価する?|世界ガイドラインWFG 2022の「一本の流れ」

転倒リスクはどう評価する?|世界ガイドラインWFG 2022の「一本の流れ」

ぺんた

先輩、転倒リスクの評価って、とりあえずTUGを測ればいいんですか?

あいす

測る前に、まず「聞く」ところから始まるんだよね。世界のガイドラインでも、いちばん最初に来るのはテストじゃなくて質問なんです。

転倒リスクの評価というと、TUGや片脚立位のような「テスト」を思い浮かべる人が多いと思います。ところが、2022年に出た転倒予防の世界ガイドライン(World Guidelines for Falls Prevention and Management、以下WFG 2022)が示している流れは、聞く → 測る → 分ける → 見て直すの4ステップで、テストはその2番目です。

この記事では、WFG 2022の原文にあたって、その流れと、それぞれのステップで何が推奨されているのかを整理します。

結論

転倒リスクの評価は「転びましたか」と聞くところから始まり、測る・分ける・見て直すまでが一本の流れになっている。

  • 高齢者と関わるたびに転倒について聞くことが、最も強い推奨(1A)のひとつ。転倒は自分からは話されないことが多い
  • 「この1年で転びましたか」の1問だけだと、転倒リスクのある人に気づける割合(感度)は43%(65〜74歳)〜67%(85歳以上)。感度を上げたいときは3つの質問を使う(体制があれば、という条件付き)
  • 測るなら、まず歩行速度(0.8m/秒未満)が1A。TUG(15秒超)は代わりの方法で1B
  • 転倒があればまず重さを確かめ、重ければ高リスクとして多方面から評価する。重くなければ歩行とバランスを測って中・低に分ける

WFG 2022は、どんなガイドラインか

WFG 2022は、39か国・96名の専門家が作業部会を組んでまとめた、転倒予防の世界ガイドラインです(学術・専門団体36団体が参加)。2022年に Age and Ageing 誌に掲載され、全文が無料で読めます。

推奨には、数字と文字を組み合わせた記号が付いています(専門家の合意によるものだけは「E」単独)。

記号 意味
数字「1」 強い推奨(利益が不利益をはっきり上回る)
数字「2」 弱い・条件付きの推奨
文字「A」「B」「C」 根拠の質が高い・中くらい・低い
「E」 基準を満たす研究が見つからない、または根拠がないため、専門家の合意で決めたもの

つまり「1A」は、強く勧められていて、根拠の質も高いという意味です。以下、この記号を添えながら見ていきます。

この記事で扱うのは、地域で暮らす高齢者向けの流れです(ガイドラインには病院や施設向けの記載もありますが、ここでは扱いません)。

ステップ1:転倒は、聞かないと話されない

WFG 2022の流れの入り口は、テストではなく質問です。

Clinicians should routinely ask about falls in their interactions with older adults, as they often will not be spontaneously reported.

臨床家は高齢者と関わる中で日頃から転倒について聞くべきで、それは転倒が自分から報告されないことが多いから、という推奨です。これが1A、つまり最も強い推奨のひとつになっています。原文には、特に男性では、直接聞かれなければ医療者に転倒を伝える人は3分の1に満たない、とも書かれています。

1問だけでは、取りこぼしが多い

基本の質問は「この1年で転びましたか」です。この質問は、将来転ばない人を誤って拾うことが少ない(特異度が高い)一方で、転倒リスクのある人に気づける割合(感度)は低い。原文にはこうあります。

sensitivity of the single question ‘Have you fallen in the past 12 months’ increases from 43% in those between 65 and 74 years old, to 67% in those over 85 years old.

感度43%ということは、65〜74歳ではリスクのある人の半分以上(57%)を見逃すということです。85歳以上の67%でも、3人に1人は見逃します。

そこでWFG 2022が挙げているのが、次の3つの質問(Three Key Questions)です。

  1. この1年で転びましたか?
  2. 立っているときや歩いているときに、ふらつきますか?
  3. 転ぶことが心配ですか?

複数の要因を聞くほうが感度が高い、というのが理由です。ただし3つの質問には推奨の記号が付いておらず、原文は「体制があれば、使うことを条件付きで勧める」という書き方です。1Aなのは「転倒について聞くこと」そのもので、3つの質問という形式ではありません。ここは区別して読む必要があります。

ぺんた

「転びましたか」って聞けば、転んだ人は教えてくれますよね?

あいす

それが、そうとも限らないんだよね。自分からは言わない人も多いし、そもそも覚えていないこともある。ガイドラインにも、その両方が書いてあるんです。

原文は、高齢者は転倒について言いたがらないことがあると書いたうえで、転んだこと自体や、それがいつだったかの記憶も当てにならないと続けています。「1年」という期間は、記憶の正確さと、リスクが変わっていく速さの間を取った現実的な妥協だという説明です。

ステップ2:重さを確かめ、重くなければ歩く速さを測る

WFG 2022の流れ図(Figure 1)では、転倒があった(または3つの質問のどれかに当てはまった)人について、まず転倒の重さを確かめます。けがを伴う、この1年で2回以上、など後で挙げる条件が1つでもあれば、その時点で高リスクです(ステップ3)。

重さの条件に当てはまらなかった人は、歩行とバランスを実際に評価します。これは強い推奨です。

では何で測るか。WFG 2022がまず勧めているのは歩行速度です。

テスト 目安 推奨
歩行速度 0.8m/秒未満で該当 1A(強い推奨・根拠の質が高い)
TUG(Timed Up and Go) 15秒を超えると該当 1B(代わりの方法。転倒の予測については結果が一貫しない)

原文は、TUGについて「代わりの方法として検討できるが、転倒の予測についての根拠は一貫していない」と書いています。あわせて、身体機能が低い人ではTUGが転倒を予測するという根拠もある、としています。WFGは代わりの方法として残しつつ、「転倒リスクを見るなら、まずTUG」という順番にはしていない、ということです。

一方、TUGのカットオフ値13.5秒は使えるのかで紹介したメタ分析(Barry 2014)の著者らは、「地域在住の高齢者では、TUGを転倒リスク評価としてもう使うべきではない」と書いています。WFGとこの論文とで、TUGの扱いには立場の違いがあります。

バランスについては、多方面から評価するときの表に、タンデム立位や片脚立位が挙がっています。片脚立ちでよく使われる5秒・15秒の線で何が確かめられているかと、日本人の年代別の値は片脚立ちは何秒なら危ない?にまとめています。

歩行速度そのものの意味については、歩行速度は「第6のバイタルサイン」をご覧ください。

在宅で歩行速度を測るとき

WFG 2022の評価の表には、歩行を4mの歩行路で評価する例が挙がっています(0.8m/秒未満)。0.8m/秒は、4mを5秒より長くかけて歩く速さです。

在宅でどう測るか(助走をつけるか、立ち止まった状態から測るか)はWFGには書かれていません。助走のありなしで数字が変わることも含めて、歩行速度の記事の「測り方」にまとめています。

なお、0.8m/秒の線は、本文と評価の表では「未満」、流れ図では「以下」と、原文の中で表記が揺れています。この記事では本文の「未満」に合わせています。

ステップ3:3つに分けると、やることが決まる

ここまでの結果で、リスクを3つに分けます。分け方と、分けたあとにやることは、WFG 2022の流れ図に示されています。ただし、この分け方そのものは専門家の合意(E)で決められたもので、流れ図も正式な検証はされていません(限界の項で詳しく書きます)。

こういう人 やること
高リスク 転倒があり(または3つの質問に当てはまり)、次のどれか1つ以上:けがを伴う/この12か月に2回以上/フレイル(虚弱)がある/自力で起き上がれず1時間以上床にいた/意識を失った(疑いを含む) 多方面からの転倒リスク評価を行い、その人に合わせた介入を組む。30〜90日でフォローする
中リスク 重さの条件には当てはまらないが、歩行やバランスに問題がある バランス・歩行・筋力の運動を、その人に合わせて行う(理学療法士への紹介)。転倒予防についての情報も渡す。1年後に見直す
低リスク 転倒がない、または重さの条件にも歩行・バランスの問題にも当てはまらない 転倒予防についての情報を渡し、希望があれば運動を勧める。1年後に見直す

原文は、低リスクについて「リスクが低い=リスクがない、ではない」とわざわざ書き、だからこそ予防(一次予防)を勧めています。そのうえで、低リスクの人も1年ごとに見直すよう書かれています。

高リスクの人については、流れ図の注に「転倒した高リスクの人は急に悪化しうるので、こまめなフォローを勧める」とあり、30〜90日でのフォローが示されています。

また、意識を失った疑いがある転倒(失神が疑われる転倒)は、失神そのものの評価につなげるよう書かれています。

ステップ4:高リスクの人は、多方面から見て直す

高リスクの人には、多方面からの転倒リスク評価(multifactorial falls risk assessment)を行い、その結果にもとづいて、その人に合わせた介入を組みます。評価して終わりではなく、見つけたものを直すところまでが流れです。

見る項目は、歩行・バランス・筋力に加えて、薬、起立性低血圧を含む心血管系、視覚、排泄、認知、栄養、住環境など多岐にわたります。理学療法士だけで見られる範囲ではないので、看護師や作業療法士と分担して見ることになります。

介入の効果を調べた研究については、このブログの別の記事で扱っています。

ぺんた

じゃあ、全員に多方面の評価をすればいいんじゃないですか?

あいす

そう思うよね。でもWFGは、そこを「高リスクの人に」と絞っているんです。分ける意味は、限られた時間を必要な人に使うところにあるんだと思う。

現場で意識したい3つのこと

1. 「転びましたか」は、本人と家族の両方に聞く ◎+△

転倒について日頃から聞くことは、WFG 2022の最も強い推奨のひとつです(1A)。そして原文は、高齢者は転倒を言いたがらないことがあるうえに、過去の転倒の記憶も当てにならないと書いています。

私自身、「この1年で転んでいない」と答えた方が、実は転んでいたことがあります。隠していたというより、忘れていたことがほとんどでした。今は、ご家族にも同じことを聞いて確かめるようにしています。

根拠:転倒を聞くことは1A ◎/言いたがらない・記憶が当てにならない(原文)◎/家族に聞くのは現場の工夫 △

2. 転倒の重さに当てはまらなければ、歩く速さを測る ◎+△

重さの条件に当てはまらなかった人には、歩行とバランスを実際に評価します。測るならまず歩行速度(0.8m/秒未満、1A)。代わりの方法としてTUG(15秒超、1B)があります。在宅では、毎回同じ距離・同じ方法で測ることを優先しています。

根拠:歩行速度 1A・TUG 1B ◎/同じ方法で測り続けるのは現場の判断 △

3. 「気になる人」を、低・中・高のどこに入るかで考える ◎+△

「なんとなく危なそう」で止めずに、表のどの箱に入るかを考えます。中リスクならバランスと筋力の運動、高リスクなら多方面からの評価へ。箱が決まると、次にやることが決まります。

根拠:高リスクに多方面の評価を行うことは1B ◎/バランスと筋力の運動で転倒リスクが下がる根拠がある(原文)◎/3つへの分け方そのものは専門家の合意(E)で、流れ図は未検証 △

このガイドラインで言えないこと

  • 日本の在宅で確かめた基準ではありません。WFG 2022は世界の専門家による国際的なガイドラインで、0.8m/秒や15秒といった目安も、日本の訪問リハの利用者を対象に検証されたものではありません
  • 3つの質問は「体制があれば」という条件付きの勧めで、推奨の記号は付いていません。1Aなのは「転倒について聞くこと」そのものです
  • 低・中・高に分ける流れ図は、8名の臨床家の作業部会がまとめたもので、正式な検証はされていません(著者ら自身が限界として書いています)。高リスクの定義も専門家の合意(E)です
  • 歩行速度やTUGは、転倒リスクを分けるための目安です。1つのテストだけで、その人が転ぶかどうかを当てられるわけではありません
  • この記事では地域で暮らす高齢者向けの流れだけを扱っています。病院や施設については、ガイドラインの別の記載を確認してください
  • ガイドラインは推奨であり、目の前の利用者さんに合わせた判断を置き換えるものではありません

次の訪問で変えること

「この1年で転びましたか」を、本人だけでなくご家族にも聞いてみる。

根拠:転倒を聞くことは1A ◎/1問だけでは感度43〜67%、しかも転倒は言いたがらないことがあり、記憶も当てにならない(原文)◎/家族にも聞くのは現場の工夫 △

まとめ

  • WFG 2022の流れは、聞く → 測る → 分ける → 見て直すの4ステップ
  • 高齢者に転倒について日頃から聞くことが、最も強い推奨(1A)のひとつ
  • 「転びましたか」の1問だけでは、感度43〜67%。感度を上げたいときは3つの質問(体制があれば、の条件付き)
  • 測るなら歩行速度(0.8m/秒未満)が1A、TUG(15秒超)は代わりの方法で1B
  • 転倒があればまず重さを見て、重ければ高リスク(多方面の評価と30〜90日のフォロー)。重くなければ歩行・バランスで中・低に分ける

在宅で使う評価の全体像は、理学療法の評価項目一覧にまとめています。


出典

Montero-Odasso M, van der Velde N, Martin FC, Petrovic M, Tan MP, Ryg J, Aguilar-Navarro S, Alexander NB, Becker C, Blain H, Bourke R, Cameron ID, Camicioli R, Clemson L, Close J, Delbaere K, Duan L, Duque G, Dyer SM, Freiberger E, Ganz DA, Gómez F, Hausdorff JM, Hogan DB, Hunter SMW, Jauregui JR, Kamkar N, Kenny RA, Lamb SE, Latham NK, Lipsitz LA, Liu-Ambrose T, Logan P, Lord SR, Mallet L, Marsh D, Milisen K, Moctezuma-Gallegos R, Morris ME, Nieuwboer A, Perracini MR, Pieruccini-Faria F, Pighills A, Said C, Sejdic E, Sherrington C, Skelton DA, Dsouza S, Speechley M, Stark S, Todd C, Troen BR, van der Cammen T, Verghese J, Vlaeyen E, Watt JA, Masud T; Task Force on Global Guidelines for Falls in Older Adults. World guidelines for falls prevention and management for older adults: a global initiative. Age and Ageing. 2022;51(9):afac205. DOI: 10.1093/ageing/afac205 PMID: 36178003 PMCID: PMC9523684

※本記事は運営者が読み、自身の言葉で要約したものです。引用した英文は原文の一部です。

タグ:転倒予防 / 評価・測定 / 歩行速度 / TUG / 訪問リハビリ

この記事について

本記事は公開されている論文をもとに、あいす・理学療法士(10年目)が要約・解説したものです。原著の内容を完全に再現するものではないため、 臨床判断の際は必ず原著をご確認ください。

また、本記事は特定の個人に対する診断・治療の助言ではありません。 症状についてのご相談は主治医・かかりつけの専門職へお願いします。