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評価・測定最終更新 2026-09-20

TUGのカットオフ値13.5秒は使えるのか|2,314人のメタ分析で読む転倒予測の限界

TUGのカットオフ値13.5秒は使えるのか|2,314人のメタ分析で読む転倒予測の限界

初回訪問でTUGを測り、「13.5秒を超えたので転倒リスクが高いですね」とカルテに書く。多くの現場で当たり前になっている流れだと思います。

ですが、この13.5秒という線引きは、どれくらい当たるのでしょうか。2014年、地域在住高齢者を対象にした25研究をまとめたシステマティックレビュー・メタ分析が、この問いに答えを出しています。

結論

TUGは、転倒を予測する道具としては力不足だった。ただし、移動能力の検査としてのTUGが不要になるわけではない。

  • 感度 0.32(95%信頼区間 0.14〜0.57)= 転倒する人の約7割を見逃す
  • 陽性尤度比 1.20(95%信頼区間 0.82〜1.75)、陰性尤度比 0.93(同 0.78〜1.10)— どちらも信頼区間が1をまたぐ
  • ROC曲線下面積 0.57(95%信頼区間 0.54〜0.59)
  • 著者らは「地域在住の高齢者では、TUGを転倒リスク評価としてもう使うべきではない」と書いている
  • ただし否定されたのは「転倒リスク評価としての使い方」。移動能力の検査としてのTUGは、別の話として残る

この研究がやったこと

  • 対象:地域在住の高齢者。施設入所者や特定疾患に限定した集団ではありません
  • 含まれた研究:システマティックレビューに25研究、うちメタ分析に10研究・2,314人
  • 検証したこと:TUGの所要時間が、その後の転倒発生をどれだけ予測できるか
  • カットオフ:13.5秒以上を「転倒リスクが高い」とする基準

日本の現場でもよく使われる13.5秒という基準が、そのまま検証されています。

結果:ほとんど当てられていなかった

指標 値(95%信頼区間)
感度 0.32(0.14〜0.57)
特異度 0.73(0.51〜0.88)
陽性尤度比 1.20(0.82〜1.75)
陰性尤度比 0.93(0.78〜1.10)
ROC曲線下面積 0.57(0.54〜0.59)

数字が並ぶと分かりにくいので、順に意味を確認します。

転んだ人の7割は、検査では拾えていなかった

感度は「実際に転倒した人のうち、事前にTUGで拾えていた割合」です。0.32ということは、その後転倒した人の約3人に2人は、TUGでは13.5秒を切っていたということになります。

スクリーニング検査としては、かなり厳しい数字です。

検査をしても、見立てはほとんど動かない

ここがこの研究のいちばん重要な部分です。

尤度比は「この検査をやったことで、判断がどれだけ変わったか」を表します。1.0だと、検査をやってもやらなくても判断は変わらないという意味になります。

  • 陽性尤度比 1.20(信頼区間 0.82〜1.75)
  • 陰性尤度比 0.93(信頼区間 0.78〜1.10)

どちらも信頼区間が1.0をまたいでいます。 つまり「TUGの結果を知っても、転倒しそうかどうかの見立てはほとんど動かない」というのが、このデータの読み方です。

著者らは、これを分かりやすい形にも直しています。統合された10研究では、追跡期間中に転んだ人がもともと100人中51人いました。そこでTUGを測ると、

  • 13.5秒以上だった人 → 転ぶのは100人中56人
  • 13.5秒未満だった人 → 転ぶのは100人中49人

測る前の51人から、ほとんど動いていません。これが「判断が変わらない」という言葉の中身です。

当てられる力は、コイン投げとほとんど変わらない

ROC曲線下面積(AUC)は、判別能力の指標です。0.5がコイントスと同じ、1.0が完璧な判別を意味します。

0.57という値は、コイントスよりわずかに良い程度ということになります。統計的には0.5より大きいと言えるものの、その差は現場の判断を変えるほどの大きさではありません。

そもそもTUGは、何を測る検査だったのか

ここで原典に戻ると、話が整理されます。

TUGを世に出した1991年の論文のタイトルは、こうです。

The timed "Up & Go": a test of basic functional mobility for frail elderly persons

「基本的な移動能力の検査」です。転倒を予測する道具として提案されたわけではありません。

つまりこのメタ分析が明らかにしたのは、「TUGがダメな検査だ」ということではなく、もともと移動能力を測るために作られた道具を、転倒予測器として使ってきたことに無理があった、ということだと思います。

道具そのものではなく、使い方の問題です。

測り方がそろっていないと、秒数は比べられない

ぺんた

TUGって、椅子から立って3m歩いて戻るだけですよね。測り方でそんなに差が出ますか?

あいす

それが出るんだよね。椅子に肘掛けがあるかどうかだけでも秒数が変わる。だから「何秒だったか」より先に「どう測ったか」を見るほうがいいところ。

TUGを最初に発表した1991年の論文には、手順が細かく決められています。今回のメタ分析も、この手順を原法として引用しています。

決めごと 原法の手順
椅子 肘掛けのある椅子。座面の高さはおよそ46cm
距離 床に引いた線まで3m
動作 立ち上がる → 線まで歩く → 向きを変える → 戻る → 座る
速さ 楽で安全な速さ(全力では歩かせない)
履物 普段はいている靴
杖・歩行器 普段使っているものを、そのまま使う
介助 しない
始めの姿勢 背中を背もたれにつけ、両手は肘掛けに置く
練習 計測の前に1回やってみる

実際の研究は、この手順どおりではなかった

著者らは、集めた研究の測り方がそろっていなかったことを限界として挙げています。

数字を統合した10研究のなかでは、こうでした。

  • 2研究は「できるだけ速く」、残り8研究は「楽な速さ」で測っていた
  • 腕を組ませて立ち上がらせた研究があった

さらに、統合はされていないものの、同じレビューが集めた25研究まで広げると、条件はもっと割れています。

  • 椅子の座面の高さが40cmのものから50cmのものまであった
  • 肘掛けのない椅子を使った研究があった。肘掛けがない椅子では所要時間が有意に長くなることが分かっている
  • 練習の回数が研究ごとに違い、2〜3回の平均を採用した研究もあった

つまり、同じ「TUG◯秒」という見た目で、中身の違うものを並べているということです。13.5秒という1本の線がどこでも当たるわけではない理由の一つが、ここにあると考えられます。

日本の高齢者は、何秒くらいで回れるのか

13.5秒は転倒しそうな人を拾うための線であって、年齢ごとの平均ではありません。同年代と比べて速いのか遅いのかを見たいときは、別の資料が要ります。

日本では、地域在住の高齢者959人(平均74.8歳)を測った報告があります。ただし健診に来られた1,715人のうち、TUGを測れた人だけの数字です。血圧が高すぎる人、半年以内に脳血管疾患や心筋梗塞があった人、歩行の障害が強く検査が難しい人は外れています。約9割が杖も歩行器も使わず、公共交通機関で一人で外出できる人たちでした。

年齢 男性 男性の平均 女性 女性の平均
65〜69歳 72人 5.4秒(±1.1) 95人 5.9秒(±1.0)
70〜74歳 134人 6.8秒(±2.7) 194人 7.6秒(±2.8)
75〜79歳 114人 7.4秒(±2.6) 164人 8.3秒(±2.4)
80〜84歳 50人 7.9秒(±2.3) 83人 9.6秒(±3.0)
85歳以上 26人 7.0秒(±1.8) 27人 13.2秒(±8.7)
全体 396人 6.9秒(±2.5) 563人 8.1秒(±3.4)

±は標準偏差です。どの年代でも男性のほうが速く、男女とも65〜69歳と70歳以上の各年代のあいだに差がありました。女性はそこからさらに、80歳を越えたところでもう一段遅くなっています。

この表を使うときに、気をつけることが2つあります

1つ目。この研究は「できるだけ速く」で測っています。椅子は高さ40cmで肘掛けなし、3m先のポールを回って戻る方法です。原法の「楽な速さ」とは別の測り方なので、この表の秒数を13.5秒と並べて比べることはできません。

2つ目。85歳以上の男性が、80〜84歳より速くなっています。85歳を過ぎると速くなるという意味ではなく、検査を受けられた26人が、その年代の中では元気な人たちだったと読むほうが自然です。人数の少ない列を、そのまま基準値として使わないほうが安全だと思います。

報告書に秒数を書くときは、「TUG 12.4秒(楽な速さ・肘掛けあり・練習1回)」のように測り方を一言添えておくと、次に測る人が同じ条件で追えます。経過を比べられるかどうかは、ここで決まります。

訪問リハの現場でどう使うか

1. 報告書の書き方を変える ◎

「TUG◯秒だから転倒リスクが高い」という書き方をやめます。感度0.32・ROC曲線下面積0.57という数字は、秒数だけで転倒を判定する根拠にならないことを示しています。

書くなら「TUG◯秒。移動能力は△△レベル」という移動能力の記述にとどめ、転倒リスクの判断は転倒歴・服薬内容・住環境・認知機能・視力・下肢筋力と合わせて行います。訪問リハは、これらを実際に見に行ける立場です。TUG1つに頼る必要がそもそもありません。

2. 家族に「検査上は問題ありませんでした」と言わない ◎

感度0.32ということは、基準を下回っていても転倒する人が多数いるということです。「TUGが速いから転びません」とは言えません。

伝えるなら「この検査で転ぶ人を見つけられるのは3割ほどなので、これだけでは判断しません」という形になります。誤った安心を与えないための言い換えです。

3. 予測に時間をかけるより、効果が確かめられている運動を届ける ◎

運動が転倒発生率を下げることは、108件のRCTをまとめたCochraneレビューで確実性「高い」として示されています(地域在住高齢者の転倒予防に運動は効くのか)。誰が転ぶかを当てにいくより、こちらに時間を使うほうが実りが大きいと思います。

バランスの側から手を入れる方法は二重課題トレーニングはバランスを改善するのかで扱っています。

なお、このメタ分析が否定したのはある一時点の値で将来の転倒を予測することです。同じ人を繰り返し測って3か月前と比べて何秒変わったかを見る使い方は、検証の対象になっていません(否定されてもいませんが、確かめられてもいません △)。同じ「移動能力を数字にする」道具としては歩行速度もあり、こちらは予後との関連が繰り返し示されています。

転倒リスクをどういう順番で見ていくかは、世界ガイドライン(WFG 2022)の流れとして転倒リスクはどう評価する?|世界ガイドラインWFG 2022の「一本の流れ」にまとめています。WFGはTUGを歩行速度の「代わりの方法」(1B)として残しており、この論文の著者らとは立場が違います。

なお、在宅で使う評価項目を目的別に並べた一覧は理学療法の評価項目一覧にまとめています。

歩く速さではなく「動いている時間の総量」を見た解析もあります(座位時間は寿命に関わるのか)。

この研究の限界

  • 対象は地域在住高齢者です。施設入所者、脳卒中後、パーキンソン病など、特定の疾患をもつ方に同じ結果が当てはまるとは限りません
  • メタ分析に含まれたのは10研究・2,314人です。システマティックレビュー全体の25研究のうち、統合できたのは一部にとどまります
  • 感度・特異度の信頼区間がかなり広い(感度0.14〜0.57)。研究間のばらつきが大きく、点推定値だけを見るのは適切ではありません
  • 検証されたのは13.5秒というカットオフです。別の基準値なら結果が変わる可能性は残ります
  • 集められた研究の測り方がそろっていません(速さの指示・椅子の高さ・肘掛けの有無・練習の回数)。統合された10研究にかぎっても、速さの指示は2通りに分かれています
  • 研究の質にばらつきがあります。著者らの質評価では、25研究のうち9研究がバイアスのリスク「高い」と判定されています
  • 原著の抄録と本文で数値がわずかに違います(抄録は感度0.31・特異度0.74、本文と表は0.32・0.73)。この記事は本文と表の値を採っています
  • 一時点での予測を検証した研究であり、繰り返し測定して変化を追う使い方は評価されていません
  • 2014年の研究であり、それ以降の知見は反映されていません

次の訪問で変えること

報告書の一文を差し替える。「TUG◯秒=転倒リスク高」ではなく「TUG◯秒・移動能力は△△」と書き、転倒リスクは転倒歴・服薬・住環境と合わせて判断する。家族には「検査上は問題ありません」と言わない。

根拠:感度0.32(95%信頼区間 0.14〜0.57)=転倒する人の約7割を見逃す ◎/ROC曲線下面積0.57(0.54〜0.59)◎/陽性・陰性尤度比とも信頼区間が1をまたぐ ◎/経過の追跡としての使い方は検証対象外 △

まとめ

  • 地域在住高齢者を対象とした10研究・2,314人のメタ分析で、TUG単独での転倒予測能が検証された
  • 感度0.32、ROC曲線下面積0.57。陽性・陰性とも尤度比の信頼区間が1.0をまたいだ
  • 著者らの言葉は「地域在住高齢者では、TUGを転倒リスク評価としてもう使うべきでない」。否定されたのは使い道であって、検査そのものではない
  • 原典(1991年)でのTUGは「基本的な移動能力の検査」であり、もともと転倒予測器ではなかった
  • 統合された研究は測り方がそろっていない(速さの指示・椅子の高さ・肘掛けの有無)。まず原法どおりに測り、測り方を記録に残す
  • 日本の地域在住高齢者959人の年代別の目安もあるが、こちらは「できるだけ速く」で測った値なので13.5秒とは比べられない
  • 移動能力の指標として、また経過を追う道具としては、引き続き有用

出典

Barry E, Galvin R, Keogh C, Horgan F, Fahey T. Is the Timed Up and Go test a useful predictor of risk of falls in community dwelling older adults: a systematic review and meta-analysis. BMC Geriatrics. 2014;14:14. DOI: 10.1186/1471-2318-14-14 PMID: 24484314

Podsiadlo D, Richardson S. The timed "Up & Go": a test of basic functional mobility for frail elderly persons. Journal of the American Geriatrics Society. 1991;39(2):142-148. DOI: 10.1111/j.1532-5415.1991.tb01616.x PMID: 1991946

島田裕之, 古名丈人, 大渕修一, 杉浦美穂, 吉田英世, 金憲経, 吉田祐子, 西澤哲, 鈴木隆雄. 高齢者を対象とした地域保健活動におけるTimed Up & Go Testの有用性. 理学療法学. 2006;33(3):105-111. DOI: 10.15063/rigaku.KJ00004335163 J-STAGEで全文を読む

※本記事は上記論文を運営者が読み、自身の言葉で要約したものです。原著の抄録・本文の転載および全訳は行っていません。診断・治療の判断は主治医・担当の専門職にご相談ください。

タグ:TUG / 転倒予防 / 評価 / 歩行 / 基準値 / 訪問リハビリ

この記事について

本記事は公開されている論文をもとに、あいす・理学療法士(10年目)が要約・解説したものです。原著の内容を完全に再現するものではないため、 臨床判断の際は必ず原著をご確認ください。

また、本記事は特定の個人に対する診断・治療の助言ではありません。 症状についてのご相談は主治医・かかりつけの専門職へお願いします。