TUGは転倒を予測できるのか|2,314人のメタ分析が示した限界と本来の使い方
初回訪問でTUGを測り、「13.5秒を超えたので転倒リスクが高いですね」とカルテに書く。多くの現場で当たり前になっている流れだと思います。
ですが、この13.5秒という線引きは、どれくらい当たるのでしょうか。2014年、地域在住高齢者を対象にした25研究をまとめたシステマティックレビュー・メタ分析が、この問いに答えを出しています。
結論
TUGは、単独で転倒を予測する道具としては力不足だった。ただしTUGが不要になるわけではない。
- 感度 0.32(95%信頼区間 0.14〜0.57)= 転倒する人の約7割を見逃す
- 陽性尤度比 1.20(95%信頼区間 0.82〜1.75)、陰性尤度比 0.93(同 0.78〜1.10)— どちらも信頼区間が1をまたぐ
- ROC曲線下面積 0.57(95%信頼区間 0.54〜0.59)
- 著者らの結論は「単独で使うべきではない」であって、「使うな」ではない
この研究がやったこと
- 対象:地域在住の高齢者。施設入所者や特定疾患に限定した集団ではありません
- 含まれた研究:システマティックレビューに25研究、うちメタ分析に10研究・2,314人
- 検証したこと:TUGの所要時間が、その後の転倒発生をどれだけ予測できるか
- カットオフ:13.5秒以上を「転倒リスクが高い」とする基準
日本の現場でもよく使われる13.5秒という基準が、そのまま検証されています。
結果:ほとんど判別できていない
| 指標 | 値(95%信頼区間) |
|---|---|
| 感度 | 0.32(0.14〜0.57) |
| 特異度 | 0.73(0.51〜0.88) |
| 陽性尤度比 | 1.20(0.82〜1.75) |
| 陰性尤度比 | 0.93(0.78〜1.10) |
| ROC曲線下面積 | 0.57(0.54〜0.59) |
数字が並ぶと分かりにくいので、順に意味を確認します。
感度0.32 —— 転倒する人の約7割を見逃す
感度は「実際に転倒した人のうち、事前にTUGで拾えていた割合」です。0.32ということは、その後転倒した人の約3人に2人は、TUGでは13.5秒を切っていたということになります。
スクリーニング検査としては、かなり厳しい数字です。
尤度比 —— 検査前と検査後で、判断がほとんど変わらない
ここがこの研究のいちばん重要な部分です。
尤度比は「この検査をやったことで、判断がどれだけ変わったか」を表します。1.0だと、検査をやってもやらなくても判断は変わらないという意味になります。
- 陽性尤度比 1.20(信頼区間 0.82〜1.75)
- 陰性尤度比 0.93(信頼区間 0.78〜1.10)
どちらも信頼区間が1.0をまたいでいます。 つまり「TUGの結果を知っても、転倒しそうかどうかの見立てはほとんど動かない」というのが、このデータの読み方です。
ROC曲線下面積0.57 —— 0.5は「まったく判別できない」
ROC曲線下面積(AUC)は、判別能力の指標です。0.5がコイントスと同じ、1.0が完璧な判別を意味します。
0.57という値は、コイントスよりわずかに良い程度ということになります。
そもそもTUGは、何のための検査だったのか
ここで原典に戻ると、話が整理されます。
TUGを世に出した1991年の論文のタイトルは、こうです。
The timed "Up & Go": a test of basic functional mobility for frail elderly persons
**「基本的な移動能力の検査」**です。転倒を予測する道具として提案されたわけではありません。
つまりこのメタ分析が明らかにしたのは、「TUGがダメな検査だ」ということではなく、もともと移動能力を測るために作られた道具を、転倒予測器として使ってきたことに無理があった、ということだと思います。
道具そのものではなく、使い方の問題です。
訪問リハの現場でどう使うか
1. 「TUGが◯秒だから転倒リスクが高い」という書き方をやめる
カルテや報告書で、TUGの秒数だけを根拠に転倒リスクを判定するのは、このデータからすると根拠が弱いです。
書くとすれば「TUG◯秒。移動能力は△△レベル」という移動能力の記述にとどめ、転倒リスクの判断は別の材料と合わせて行う、という形が正確です。
2. 転倒予測には、複数の情報を組み合わせる
著者らの結論は「単独で使うべきではない」です。裏を返せば、他の情報と組み合わせる使い方までは否定していません。
転倒歴、服薬内容、住環境、認知機能、視力、下肢筋力——訪問リハでは、こうした情報を実際に見に行ける立場にあります。病院より情報を集めやすい環境にいるわけで、TUG1つに頼る必要がそもそもありません。
3. 経過の追跡には引き続き使える
このメタ分析が否定したのは「ある一時点の値で将来の転倒を予測すること」です。同じ人を繰り返し測って変化を追う使い方は、検証の対象になっていません。
移動能力の指標としては原典どおりの用途なので、3か月前と比べて何秒変わったかという見方は、引き続き意味があります。
4. ご家族への説明の仕方に注意する
「TUGが速いから転倒しない」とは言えません。感度0.32ということは、基準を下回っていても転倒する人が多数いるということです。
「検査上は問題ありませんでした」という伝え方は、ご家族に誤った安心を与えかねません。ここは慎重に。
この研究の限界
- 対象は地域在住高齢者です。施設入所者、脳卒中後、パーキンソン病など、特定の疾患をもつ方に同じ結果が当てはまるとは限りません
- メタ分析に含まれたのは10研究・2,314人です。システマティックレビュー全体の25研究のうち、統合できたのは一部にとどまります
- 感度・特異度の信頼区間がかなり広い(感度0.14〜0.57)。研究間のばらつきが大きく、点推定値だけを見るのは適切ではありません
- 検証されたのは13.5秒というカットオフです。別の基準値なら結果が変わる可能性は残ります
- 一時点での予測を検証した研究であり、繰り返し測定して変化を追う使い方は評価されていません
- 2014年の研究であり、それ以降の知見は反映されていません
まとめ
- 地域在住高齢者を対象とした10研究・2,314人のメタ分析で、TUG単独での転倒予測能が検証された
- 感度0.32、ROC曲線下面積0.57。陽性・陰性とも尤度比の信頼区間が1.0をまたいだ
- 著者らの結論は「単独で使うべきではない」。TUGを使うなという結論ではない
- 原典(1991年)でのTUGは「基本的な移動能力の検査」であり、もともと転倒予測器ではなかった
- 移動能力の指標として、また経過を追う道具としては、引き続き有用
出典
Barry E, Galvin R, Keogh C, Horgan F, Fahey T. Is the Timed Up and Go test a useful predictor of risk of falls in community dwelling older adults: a systematic review and meta-analysis. BMC Geriatrics. 2014;14:14. DOI: 10.1186/1471-2318-14-14 PMID: 24484314
Podsiadlo D, Richardson S. The timed "Up & Go": a test of basic functional mobility for frail elderly persons. Journal of the American Geriatrics Society. 1991;39(2):142-148. DOI: 10.1111/j.1532-5415.1991.tb01616.x PMID: 1991946
※本記事は上記論文を運営者が読み、自身の言葉で要約したものです。原著の抄録・本文の転載および全訳は行っていません。診断・治療の判断は主治医・担当の専門職にご相談ください。
この記事について
本記事は公開されている論文をもとに、あいす・理学療法士(10年目)が要約・解説したものです。原著の内容を完全に再現するものではないため、 臨床判断の際は必ず原著をご確認ください。
また、本記事は特定の個人に対する診断・治療の助言ではありません。 症状についてのご相談は主治医・かかりつけの専門職へお願いします。